季節性の感染症は減ったけれど
コロナウイルス感染症がやや減少傾向に転じ、日本でもいよいよワクチン接種が始まりました。
コロナ禍において、何か良かったことがあるとすれば、インフルエンザなどコロナウイルス以外の季節性の感染症が減少したことが挙げられるのではないでしょうか。
今まで当たり前に行っていたインフルエンザや溶連菌などの検査を実施しない医療機関が増えたため、検査数自体が減少していることも一因ではありますが、それでもかつてないほどに減少しています。
さて、このように飛沫感染する感染症は、手洗いやマスク、消毒、人との接触を避けることで、ある程度予防できることがわかりましたが、なかなか避けられないのが寄生虫による食中毒です。
今回は、もっとも身近な寄生虫であるアニサキスによる食中毒についてわかりやすく解説します。
魚を食べた後の腹痛は可能性大!
アニサキスは寄生虫の一種で、体長2cmほどの糸状の白い体をしています。
クジラやイルカが最終宿主となりますが、その途中の中間宿主である魚を人間が食べることによって発症します。
よく報告されるのが、サバ・アジ・イカ・カツオなどを生食した場合で、食べた魚の身にアニサキスが潜んでいると、それが人の消化管に入り、胃や腸の壁に食い込みます。胃で発症することがほとんどです。
アニサキスを含む魚類を摂取してから数時間で、突然の腹痛や吐き気、嘔吐などの症状が起こります。
腹痛は我慢できないほどの激痛になることが多く、間欠的に痛みが襲ってくるため、「陣痛のようだった」と表現する方もいます。
魚類を食べてから数時間後に急激な腹痛が起こった場合、アニサキス症が疑われます。
「よく噛む」は不十分。正しい対策とは?
「アニサキスは見た目でわかりますか?」とよく聞かれますが、アニサキスは半透明の白色をしていて糸のように細い寄生虫なので、イカや身の色が薄い魚だと、目視だけで除去するのは難しい場合が多いです。
では、どのように予防したら良いのでしょうか?
① 加熱
アニサキスは熱に弱いため60℃以上/1分間以上加熱しましょう。
② 冷凍
冷凍もアニサキスを死滅させる方法のひとつです。
−20℃以下で24時間以上凍らせることでアニサキスは死んでしまいます。
③ 目視による除去とよく噛むこと
こちらもアニサキス症を予防する方法のひとつではありますが、アニサキスは小さく、魚の身と同化して見えることもあるため、目視やよく噛むことだけで完全に防げるわけではありません。
あくまで補助的な予防法ととらえてください。
②の冷凍に関してですが、ここ数年テレビ等でもアニサキス症が取り上げられるため、アニサキス=冷凍すれば大丈夫と覚えている方も多いと思います。
しかし、−20℃以下で24時間以上、身の中心部までしっかりと凍らせる必要があるため注意が必要です。
最近の冷蔵庫には、冷蔵と冷凍の間の温度帯である「チルド室」がついていることがありますが、チルド室に入れただけでは(容易に包丁で切れるような状態)アニサキスが死滅せず生き残ってしまいます。
「加熱」はわかりやすいですが、「冷凍」だと場合によっては不十分なことがあるため、しっかり中まで凍らせる必要があることを覚えておいてくださいね。
なぜアニサキスが増えた?
アニサキス症自体は昔からありますが、近年はアニサキス症を食中毒として保健所に届出するケースが増えたため、報告数が増えているという背景があります。
また、昔は遠方で獲れた魚類は一旦凍らせた状態で流通させていましたが、流通システムの発達により、生のまま遠くまで運べるようになったため、生食の機会が増えたことも影響しています。
アニサキスが強く疑われる場合には、すぐに胃内視鏡検査を行い、虫が見つかれば、その場で処置具を用いて物理的に除去します。
大体は胃の粘膜に食い込んでいて、生きていることも、そのまま死んでしまっていることもありますが、除去してしまえば比較的すぐに強い痛みは治まります。
ただ、アニサキスが食い込んだ部分は炎症を起こしているので、すっきりと痛みが取れるまでは数日かかります。
もうすぐ初ガツオの季節。
2018年はカツオが豊漁だったため、カツオ由来のアニサキス症が多く発生しました。
「イカ、サバ」のイメージが強いですが、カツオのタタキも意外と多いのです。(中心部分は非加熱のため)
通常の感染症の対策とは違うため見落としてしまいがちですが、魚類の生食の際は十分に気をつけて、美味しく魚を食べられるようにしましょう。