2019/12/26【ノロウイルス】ノロ対策の手洗いに死角 画像が教える思わぬ洗い残し
毎年、冬になると多くの人が苦しめられるノロウイルス。感染力は非常に強く、特に免疫力の低い子どもや高齢者は重症化しやすい。ノロウイルスを予防するには、また発症したときはどうすればいいのだろう? 2019年11月に開催された「家庭で実践できる感染予防学を学ぶ『ノロウイルス対策セミナー』」(ビオフェルミン製薬主催)から、すぐに役立つノロウイルスの対処法をお伝えしよう。
発症したときは脱水を防ぐことが最も重要
最初の講演は東邦大学医療センター大森病院総合診療・急病センター助教で日本感染症学会専門医・指導医の前田正さんが行った。
「吐き気・下痢・腹痛などの症状が表れる感染性腸炎は、11月から2月にかけての冬の時期に多くなります。大きく細菌性とウイルス性に分かれますが、ウイルス性では、調査により多少数字が異なるもののノロウイルスが約3割を占めるという調査もあります」(前田さん)
ノロウイルスの感染はウイルスに汚染された食品を加熱が不十分なまま食べることで、まず冬期の食中毒として発生することが多い。潜伏期間は1日程度。感染すると、激しい下痢や吐き気といった症状が表れる。その後、感染者の下痢や嘔吐(おうと)物を介して周囲の人も感染する。
ウイルスには抗生物質が効かない。治療は基本的に対症療法で、自然に治るのを待つしかない。体内にいるウイルスを早く追い出すため、下痢止めもできるだけ使わないほうがいいという。
発症したとき最も重要なのは脱水症を防ぐことだ。前田さんは「体を潤すだけでもだいぶ症状が改善するので、少しずつでも水分を摂取するようにしてください」とアドバイスする。
感染力が極めて強いので、汚物の処理は要注意
ノロウイルスの感染力は非常に強く、10~100個程度でも感染し発病する(Lancet. 1994;343:1240-2)。そのため広まりやすく、しばしば集団感染を引き起こす。特に小さい子どもや高齢者は免疫力が低いので感染すると発病しやすい。わずか10個程度に触れただけでも感染する可能性があるのに、「感染者の嘔吐物には1g中に約100万個、便には1g中100万~10億個ものウイルスがいる」(前田さん)という。
ノロウイルスが集団発生した施設を調査した報告によると、トイレの便座には1平方センチメートル当たり520~1万5000個、ドアノブには同120~270個ものウイルスが付着していたという(公衆衛生 2007;71:972-6)。触れば十分感染する量だ。
子どもはトイレまで行けずに室内で吐いてしまうことも多いが、嘔吐物の掃除も慎重に行わなければならない。ウイルスが大量に含まれているので、不用意に触ると簡単に感染してしまうからだ。
「掃除をする場合、使い捨ての手袋とマスク、エプロンを着用し、同じく使い捨ての布やペーパータオルで外側から内側に向けて拭き取ります。その後、嘔吐物が付着していた場所を0.1%以上に希釈した次亜塩素酸ナトリウムを染みこませた布で拭いてください。次亜塩素酸ナトリウムを含む家庭用の塩素系漂白剤でも代用できます。アルコールでは不十分です」(前田さん)
感染者の嘔吐物などを掃除した人が感染する可能性もある。1日か2日後に激しい下痢などの症状が表れた場合、感染したことを自覚して人との接触を控えるようにしよう。
なお、ノロウイルスにはいろいろな型があるため、予防効果のあるワクチンは開発されていない。「二枚貝などウイルスに汚染されているものを生などで食べないことも大切ですが、予防法として特に重要なのは『手洗い』の徹底です」と前田さんは強調した。
トイレの後、手のどこが汚れやすい?
その言葉を受けて、続いての講演は公益社団法人日本食品衛生協会出版部制作課の神薗紀子さん。「手洗いマイスター」の資格も持つ神薗さんが「衛生的な手の洗い方」を紹介した。
「ウイルスの感染を防ぐには食品の加熱調理や保管時の温度管理で増やさないという方法もありますが、高い温度がかけられない場合もありますし、ノロウイルスは少量でも感染します。ウイルスをつけないよう手洗いを徹底することが有効です」(神薗さん)
外出先から帰ってきたとき、トイレに行った後、料理や食事の前、ゴミに触れた後など、ウイルスが手についたり、手で口元を触ったりする可能性が高いときは必ず手を洗うようにしよう。
ただし、せっかく手を洗っても、洗い残しがあっては台無しだ。手に蛍光ローションを塗ってから洗い落とし、ブラックライトを当てると落とし切れていない部分が白く光る。その実験から、多くの人が洗い残しやすい部分が明らかになったという。
「指先、爪と皮膚の間、手のひらのシワ、親指の付け根、手首。これらが特に洗い残しやすい部分です」と神薗さんは指摘する。
ちなみに、トイレの後、お尻を拭くと手のどこが汚れやすいかというと、指先、親指の付け根、そして袖口だそうだ。「つまり、汚れやすくて、洗い残しが多い部分に注意しないと危ないのです」(神薗さん)
「洗い残しのない手の洗い方」を覚えよう
では、具体的にどのように洗えばいいのか。日本食品衛生協会が勧める「洗い残しのない手の洗い方」は次の通りだ。
1. まず、流水で手を洗う
2. 洗浄剤を手に取る。固形石せっけんは菌やウイルスが付着するので液体のほうがいい
3. 手のひら、指の腹面を洗う
4. 手の甲、指の背を洗う(骨と骨の間に沿うように、シワを伸ばすように洗う)
5. 指を交差して、指の側面や股の部分を洗う
6. 親指と付け根のふくらんだ部分を洗う
7. 他方の手のひらをひっかくように、爪と皮膚の間が触れるようにして指先を洗う
8. 手首を洗う
9. 流水で洗浄剤をしっかり洗い流す
10. 手を拭く。タオルの共用はしないこと。使い捨てのペーパータオルがベスト
11. できれば最後にアルコールをスプレーする
ご存じの通り、手洗いは風邪やインフルエンザの予防にもなる。30の研究を分析した論文によると、手洗いによって風邪など呼吸器系疾患の発症率が21%減ることが分かったという(Am J Public Health. 2008;98:1372-81)。
自分がつらい思いをするだけならまだしも、ノロウイルスは感染力が強いので、いったん感染してしまうと家族や同僚をも巻き込みかねない。免疫力が強い人の場合、不顕性感染といって症状が出ないまま感染し、自分でも気づかぬうちにウイルスをまき散らしてしまうこともある。ウイルスを体内に入れないため、しっかり洗い残しなく手を洗うことを心がけよう。
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