2018年も大手外食チェーン店が相次いで食中毒事故を起こし、営業停止処分を受けた。11月現在の厚生労働省が公表している速報をみても、全国から届出のあった食中毒事故の半数以上が、飲食店で発生している。
食中毒の予防に努めるのは飲食店の義務だ。だが、もし自店の責任で客に食中毒症状の疑いが出た場合、保健所から立入検査がある。その際、飲食店はどう対応するべきだろうか。東京都内で最も飲食店が多いエリアのひとつである港区の食品衛生を監視指導する、みなと保健所の担当者に話を聞いた。
2018年に起こった主な食中毒事件・事故
まずは2018年に起こった主な食中毒による事故を振り返ってみたい。大手チェーンから個店まで幅広く食中毒事故が発生している。企業の規模や業態、取り扱う食材によらず、どんなに衛生管理に注意を払っていても、万が一の事故は起こりえるといえそうだ。
食中毒が飲食店で発生した場合の流れ
ここからは、飲食店による食中毒事故が疑われた場合を想定する。この場合の食中毒は、体調不良を起こした本人が病院を受診したり、保健所へ食中毒かもしれないという問合せをすることで発覚することが多いという。
食品衛生法では、医師が食中毒やその疑いがあると診断した場合、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ることが定められている。病院から連絡をうけた保健所は、ただちに患者への調査を開始すると同時に、食中毒の発生源と疑われる施設への立入調査を行う。
食中毒発生から行政処分までの流れ
「お客様によっては、体調不良を店舗に申し出ることもあります。その場合飲食店は、まず病院での受診を勧めてください。さらにいつ何を食べたか、いつからどのような症状があるか聞き取りをして、その内容を迷わず保健所にご連絡いただきたいです」
飲食店には立入調査の結果と、体調不良の患者への聞き取り調査の内容をもとに、通常、数日~1ヶ月以内に行政指導や行政処分といった判断が下される。特に調査中にも複数のグループで患者が増えていくような場合、患者らの共通の喫食先が特定されれば、先に処分が決まることもある。
保健所への対応で、求められること
実際の食中毒の調査は保健所職員によって行われる。調査内容は事案ごとに異なるため、症状や状況にあわせた聞き取り形式で進められる。
【患者側への主な聞き取り項目】
・具合が悪いのはいつから、どんな症状か
・いつどこで何を食べたか
【店舗への主な聞き取り項目】
・申し出のあった客の利用した日時
・他からの苦情がないか
・その日の利用者数
・原因と疑われるメニューの出品数、調理工程
・体調が悪い従業員がいないか
また、聞き取りだけではなく、商品の仕入や、調理に関わる資料を求められることもある。特に調理工程マニュアルは食材の加熱時間や、調理手順を確認する上で重要な情報源となる。保健所の調査は店舗だけでなく、食材の仕入れ先まであらゆる場所に及ぶため、ごまかしは効かない。できるだけ早く原因の特定が進められるように協力することが肝心だ。
【店舗から保健所への主な提出物】
・調理手順のわかる調理方法マニュアル
・衛生管理マニュアルや記録類(冷蔵庫の温度チェック表など)
・従業員の検便結果(後日実施の場合もあり)
・検体(原因と疑われるメニューなど)
・仕入れ先、仕入れ履歴がわかるもの(伝票など)
・必要に応じて、検便検査
保健所から飲食店への立入検査についての連絡は直前か、しないこともあるという。それは被害の拡大を防ぐため一刻を争うからだ。
飲食店はいつどこの店舗に調査が入るかはわからないため、提出物をすぐ出せるよう、日頃から衛生管理状況がわかる調理手順のマニュアル類や、仕入れ伝票などを整理しておくことが大切になる。
2018年6月に食品衛生法が改正され、HACCPに沿った衛生管理が制度化された。今後はHACCPに沿った衛生管理の実施が、原則すべての食品等事業者に求められる。
小規模の飲食店でも、衛生管理計画の作成と実施の記録が責務となるなど、一層の情報収集と衛生管理が必要となる。(2020年6月13日までに施行され、施行日から1年が経過措置期間)
保健所による「指導」と「処分」の違い
店舗に食中毒の原因が認められた場合、営業の禁停止処分などは管轄の保健所が判断する。立入調査のあと、通常は数日~約1ヶ月以内に処分が決まる。店舗における食中毒事故というと、営業停止や損害賠償を連想するが、すべてのケースが即座に営業停止となるわけではない。
保健所による「指導」と「処分」の違い
・口頭指導…加工時、調理時の衛生面の改善を目的とした指導が行われる。
具体的には、設備不備や食材の衛生管理、交差汚染などの可能性があるものについて自主的な改善や営業自粛を求められる。
・書面指導…口頭による指導に従わない場合、書面による行政指導が行われる。
さらに各自治体のHP 等で事業者名、処分内容、食中毒事件の概要、指導内容、等が公表される。
・行政処分…営業停止、営業禁止、営業許可取り消し等の処分が課せられる。さらに各自治体のHP 等で事業者名、処分内容、食中毒事件の概要、指導内容、等が公表される。営業停止は処分時に期間が決まっているが、営業禁止には期間がない。さらに改善の見込みがない場合は、営業許可取り消しとなる場合がある。
1日も早い信頼回復のためには再発防止の徹底を
もし、自店で食中毒を起こしてしまった場合、店は一時的に顧客の信用を失うかもしれない。しかし信用の失墜を恐れて事故発生時に非を認めず、保健所への対応を先延ばしにしたり、行政処分の責任を納入業者など外部に転嫁するような態度は、企業イメージも悪くなり逆効果だ。失った信頼を1日も早く取り戻すためには、どんな対応が必要になるのだろうか。
「行政処分後に保健所は、食中毒の原因が何だったのか、事業者に説明や講習会を行います。なぜ食中毒が起きてしまったのか、起こさないためには何が必要だったか、従業員全体で共有して、納得していただくことが最も大事です。意識を変えていただかないと、また同じ原因で繰り返してしまうことになります。
食中毒が起こる1番の原因は、一般衛生管理ができていないことにあります。手洗いをちゃんとするとか、基本的なところから、納品の際の品質をみたり、温度の管理をしていただくのが飲食店の基本だと思っています。普段からお店で出すものに関心を持っていただきたいですね」
飲食に携わる上で最も起こしてはならないのが食の安心・安全をおびやかす事件・事故。その代表が食中毒だ。客の命と、店の信用を守るためにも、万が一疑いがある場合は速やかに保健所と連携し、事態の収束をはかってほしい。