【性感染症最前線】性器ヘルペス(3)
「私の旦那は財産は残してくれませんでした。でもヘルペスだけは残してくれました。ヘルペスができるたびに旦那のことを思い出します」
これは性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)を受診したある未亡人の言葉だ。
性器に小さな水膨れが多発し、痛みやかゆみなどの症状が出る「性器ヘルペス」。原因の「単純ヘルペスウイルス(HSV)」に感染すると、症状が治ってもウイルスは消えずに体内に潜み、再発を繰り返すのが特徴だ。
再発するのは過度なストレスなど免疫力が低下したとき。頻度は月に2~3回の場合もあれば、年に1~2回の場合もあり、人によってバラツキが大きい。再発予防には体調管理が大切だが、他にどんな対策があるのか。同院の尾上泰彦院長が言う。
「再発を何回も繰り返している人の中には、再発する前に性器や下半身に『違和感』『不快感』『疼痛(とうつう)』などの前兆を感じ取れる人もいます。そのような人の場合、前兆を感じた時点で抗ウイルス薬を飲む『待ち伏せ療法』を行うことで再発を抑えられる人もいます」
しかし、すべての人が前兆を感じ取れるわけではない。頻繁に再発する場合は、心身に多大なストレスが加わり、QOL(生活の質)が著しく低下する。そこで国内では2006年に保険適用になったのが「再発抑制療法」。年6回以上繰り返す患者を対象としている。
通常、性器ヘルペスが再発したときに行う治療は、抗ウイルス薬(服用量は薬の種類により違いがある)を5日間飲む。再発抑制療法の場合は、抗ウイルス薬を1日1錠、毎日飲む。そして1年間継続後に、再投与するかどうか検討する。尾上院長の経験では、2年間くらい飲み続けるといいという。
「1日1錠では患者の60~70%は再発を抑制できるとされていて、年10回以上再発する人では、服用中に再発することもあります。その場合には、最初の5日間は1日2錠に増量し、以降は1日1錠に戻します。これでだいたい抑えられます」
性器ヘルペス患者はパートナーも含め、再発抑制療法中でもコンドームの使用が勧められている。しかし、再発部位は、肛門、お尻、太ももなどにも起こるので、コンドームで完全に予防することは不可能。実際に最初は性器に症状が出ていても、繰り返すうちに肛門へ、お尻へと移動するという。そのため、性交ではなく、公衆トイレの便座からうつる可能性もある。便座クリーナーは使った方がよさそうだ。