Q:風邪気味と言っていた母(70代)がその日のうちに倒れ、「細菌性髄膜炎」と診断されました。一命は取り留めましたが、現在も入院中で後遺症も懸念されるようです。この「髄膜炎」とは脳にどのような影響がある病気なのでしょうか。また、何か予防する手立てはあったのでしょうか。
―― 細菌性髄膜炎とはどんな病気ですか。
「細菌性髄膜炎は、インフルエンザ菌(冬季に流行するインフルエンザウイルスとは異なる)や肺炎球菌などの細菌感染が原因となって髄膜(脳を覆う膜のこと)に炎症が起こる病気です。同じ感染性の髄膜炎でもウイルス性髄膜炎は若い人もなるのに対して、細菌性髄膜炎は抵抗力が低下する60代以降あるいは3~4歳以下が中心ですが、中でも圧倒的に幼児に多くみられます。初期は強い頭痛を伴う風邪症状を訴えることが多く、発熱や意識障害などが現れ、急激に悪化します。発症する頻度こそ低いのですが、死亡したり、後遺症が残る割合が高いという非常に怖い病気ですね。
細菌性髄膜炎の診断は、血液や髄液の検査と神経症状などの所見から行います。まず大事なのは、神経症状を診ることができる医療機関を受診することですね。ウイルス性との鑑別も重要で、髄液検査では細菌性の場合、髄液中の多核白血球数がぐんと増えて、色も米のとぎ汁のような白濁がみられるようになります。一方のウイルス性では、黄色味は出ても透明性が保たれていて、髄液中に増加するのはリンパ球が主体になります。検査などで原因菌が確認されたら、適切な抗菌薬(抗生物質)を使って治療を行います。ただし、細菌性髄膜炎は開頭手術で耐性菌(ブドウ球菌など)が入り込んだのが原因で起こることもあり、その場合、抗菌薬は効果がありません」
―― 死亡したり後遺症が残ったりするということは、抗菌薬が効かないことがあるのですか。
「実は、脳の血管は他の血管と作りが違っていることが関係しています。脳の血管には『血液脳関門』という内側の粘膜(内皮細胞)の穴がとても小さく、分子量の大きい物質は一切脳に行かないようなバリア機能があります。細菌性髄膜炎の発症率が高くないのも、血液の中に入ってしまった細菌が運悪くバリアの壊れたところから脳に入り込んだりして発症するからなんですね。ところが、この機能があるために、血中に投与した抗菌薬も脳に行かないものが多いのです。そのため、届きやすい薬の選択が重要になるわけですが、効果が出ない場合には、脊髄腔に管を入れて直接薬を髄液に投与するという方法をとることもあります」
――どんな後遺症が残ったりするのですか。
「後遺症で一番怖いのは、脳炎を合併したり、けいれん発作を持続したりすることで意識が戻らなくなることですね。非常に多い合併症としては、水頭症による歩行困難、失禁、知能の障害があり、脳炎を合併すれば障害された部位によって半身不随などの脱落症状が起こります。脳という臓器は、他の臓器と決定的に違うところがあって、それぞれの働きをする部位が1つしかなく、代替えが利かないんですね。例えば、腎臓なら左右同じ働きをしますが、脳はそれがない。脳の特異的なところです。予防は原因菌の飛沫感染や接触感染を避けること。早期発見については、残念ながら一般の人には髄膜炎との区別は難しく、医師に委ねるしかありません。ものすごく頭痛がする風邪だと思ったら髄膜炎だった……という話も聞きますが、時期を適切に治さないと後遺症が残る可能性がある、ということは覚えておきましょう」
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