【研究報告】耐性菌フリーの新たな治療法を開発 緑膿菌感染の皮膚潰瘍 /大阪府
大阪市立大学大学院(大阪市)医学研究科皮膚病態学の鶴田大輔教授らの研究グループは、先ごろ、医薬品などを開発・製造するSBIファーマ株式会社(東京都港区)と共同で行ったマウスによる研究結果を発表。マウスの皮膚にできた潰瘍への緑膿菌の感染に対して、天然のアミノ酸である5-アミノレブリン酸(5-ALA)の局所投与とLED光を用いた光線力学療法(PDT)を行ったところ、緑膿菌が殺菌され、細菌に感染していない場合と同等に潰瘍の治癒が促進したと報告した。研究の詳細は、2018年3月5日発行の医学誌「Journal of Dermatological Science」(電子版)に掲載されている。
13日目に潰瘍が治癒
近年、抗菌薬に対する抵抗力を持ち、薬による影響を受けずに増殖を続ける「耐性菌」の出現とまん延が、世界的に問題視されている。
抗菌薬が効かないとなれば、抵抗力の弱い皮膚潰瘍患者にとって、細菌感染は大きな脅威となる。皮膚潰瘍に感染を引き起こす二大細菌は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と緑膿菌だ。
研究グループは、これまでに、MRSAに感染した皮膚潰瘍に対して、5-ALAと波長410nm(1nmは10億分の1m)のLED光を使用したPDTを実施。殺菌効果と潰瘍の治癒促進効果があることを報告している。
PDTとは、光に対する感受性を高める物質を事前に投与し、標的となる組織に集積させた後に、特定の波長の光を当てる。そこで生じた活性酸素が、標的である細菌を死滅させる治療法だ。殺菌のメカニズムは既存の抗菌薬による治療とは全く異なり、耐性菌を生じないという特徴がある。
そこで今回、研究グループは、MRSAと同様に緑膿菌に対してもPDTが有効かどうかを検討した。緑膿菌は水回りなどの生活環境に広く常在するが、各種の抗菌薬に耐性を示す傾向が強く、医療現場で問題となっている細菌だ。
当初は緑膿菌に対してもMRSA同様の方法でPDTを行っていたが、思うような効果が得られなかった。そこで、さまざまな条件を再度検討して、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA-2Na)というキレート剤をほんの少し、5-ALAに混ぜてPDTを試みた。
その結果、MRSA感染皮膚潰瘍と同様に、緑膿菌はPDTにより殺菌された。また、PDTを行ったマウスの潰瘍は、細菌感染のない場合と同じく、13日目に治癒した。それに対して、PDTを行わなかったマウスでは、緑膿菌感染潰瘍の面積が、実験開始13日目には約40%までしか縮小しなかった。
研究グループは「PDTにより、緑膿菌感染皮膚潰瘍の治癒が明らかに促進され、細菌に感染していない潰瘍と同等の治癒効果を得ることに成功した」とコメント。「5-ALAを用いたPDTは耐性菌を作らないため、新しい感染皮膚潰瘍の治療法となるだろう」と期待を寄せている。さらに、2018年3月からは人を対象とした治療研究を開始しているという。