2017/12/25【行政】かけもち保健所長、あわや重大ミス経験も…災害や食中毒でも大丈夫?

【行政】かけもち保健所長、あわや重大ミス経験も…災害や食中毒でも大丈夫?

全国の約50の保健所で、所長が兼務状態になっていることが明らかになった。住民の健康管理に加え、集団食中毒の対策や災害時の感染症予防など近年、その役割の重要性がこれまで以上に高まる保健所だが、所長のなり手不足を解消する見通しは立っていない。兼務所長の負担は大きく、緊急時の対応を懸念する声も上がっている。

週の半分以上

「広域的に有事が発生した場合、果たして対応できるのか」。茨城県内で2013年から常総、つくば両保健所を、今春からは筑西保健所も兼務する本多めぐみ所長(58)は危惧する。

常総保健所の管内では15年9月、鬼怒川の堤防が決壊し、甚大な浸水被害が起きた。保健所の建物も浸水し、職員はつくば保健所に設置された仮事務所を拠点に活動。本多所長は“司令塔”として、避難所の被災者の健康管理支援や、関係機関との連絡調整に奔走する日々が続いた。

現在も、週の半分以上は1日で2か所の保健所を駆け回る。職員との打ち合わせに十分な時間が取れず、重要な会議の日程が重複することもあるといい、「一人の能力には限界があり、所長の兼務状態は一刻も早く解消すべきだ」と訴える。

「初動に遅れ」

読売新聞は今年6月、全国の兼務所長51人(10月までに兼務が解消された所長を含む)を対象にアンケート調査も実施し、33人から回答を得た。

アンケート結果によると、大規模災害や感染症などの緊急対応に「不安がある」と回答したのは19人(58%)で、不安の理由は「2か所での危機対応は困難」「初動対応が遅れる恐れがある」などだった。

また、兼務に「負担を感じる」と答えたのは21人(64%)。重大なミスにつながりかねない「ヒヤリハット」を経験した人からは、「電話での連絡調整が多く、判断ミスにつながりかねないことがあった」「行事の重複や漏れ」などの回答があった。

「医師確保を」

保健所長について厚生労働省は04年、「3年以上、公衆衛生の実務に従事した経験を持つか、国の定めた養成訓練を受けた医師が就く」との資格条件を緩和。医師と同等以上の知識を持つ歯科医師や保健師なども2年間を上限に、例外的に認めるようにしたが、新条件で就任した人はわずかで、兼務状態の解消はほど遠い状況だ。

一方、同年の資格要件の見直しの際、公衆衛生の専門家からは新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)や、鳥インフルエンザ問題への対応を想定し、所長は医師であるべきだとの意見が出ていた。

アンケート調査でも、保健所長が医師であるべきかどうかを改めて尋ねた結果、「必ず医師であるべき」は16人(48%)で、「どちらかといえば医師であるべき」を含めると計27人(82%)に上った。理由は「医学的判断・専門能力が必要」などが19人で最も多かった。

京都府立医大の渡辺能行教授(地域保健学)も「保健所長は首長や警察、医師会などと協調して事態に対処する能力が必要で、専門知識を持った医師が望ましい。自治体は大学や医師会と情報共有して、所長の確保に本気で取り組むべきだ」と指摘している。

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