【B型肝炎】B型肝炎経験 次代へ継ぐ 患者ら講義、きょう100回目 「受け入れる社会に」
B型肝炎について正しく理解してもらおうと、1980年代まで続いた集団予防接種の注射器使い回しが原因で感染した患者や遺族が学校現場で若者に講義を続けている。「空気感染する」などの誤解から差別された経験を明かし、正確な知識を伝える。約3年前に始めた活動はきょうで100回目。関係者は「患者が受け入れられる社会を実現したい」との信念で、語り手を続ける。
「感染を知られると配置転換され、飲み会で鍋の中に箸を入れるなと言われた」。兵庫県西宮市の男性患者(52)は6日、龍谷大(京都市)で学生約200人に職場でのつらい体験を話した。31歳でB型肝炎ウイルスによる慢性肝炎と診断された。毎日薬を飲み、3カ月に1度の検査に通う。
B型肝炎は血液や体液を介して感染するウイルス性の病気だ。感染経路は出産時の母子感染や性的接触によることが多かった。厚生労働省によると、現在は母親が感染していても、出産後12時間以内に子供にワクチンを接種すれば母子感染をほぼ防ぐことができる。空気感染もしないが、患者を支援する弁護士は「結婚が破談になる例もいまだにある」という。
講義を受けた2年生の南村祐輔さん(20)は「知識不足から生まれる差別もあると実感した」。教員になるのが夢で「子供たちにきちんと伝えないと」と力を込めた。2年生の神谷早紀さん(19)は「B型肝炎以外の病気についても同じような無理解があるかもしれない。内容を家族や友人と共有したい」と話した。
講義は2014年、注射器使い回しによる感染を巡って国の責任を問うた訴訟の原告団が始めた。これまで25都道府県の中学、高校、大学などで実施し、約1万人が聴講した。今月12日午後、北海道大で100回を迎える。
大阪府富田林市の小池真紀子さん(65)も語り手の1人だ。24歳で長女を出産した際に感染していたことが判明。長女、長男も母子感染し、「子供に申し訳ないという思いからは一生解放されない」と苦悩を語る。
当初は「患者が体験を話しても、差別が助長されるだけではないか」と講義に反対だった。しかし、長い間、差別や偏見を受けてきたハンセン病の元患者が、自らの体験を語ることで過去の事実を継承していることを知り、考え方が変わったという。
つらい経験を振り返る負担は大きく、講義後は1週間ほど落ち込むこともある。それでも「1人でも多くの若者にB型肝炎やほかの病気のことを知ってもらい、患者を受け入れる社会をつくりたい」との思いで今後も語り続けるつもりだ。
「集団予防接種が原因」45万人
厚生労働省によると、B型肝炎ウイルスを体内に持つ「持続感染者」は国内に推計110万~140万人。1988年まで40年続いた集団予防接種での注射器使い回しによって感染は拡大した。同原因による患者は推計45万人に上る。
札幌市などの患者5人は89年、「国は注射器の使い回しによる感染を予測できたのに放置した」として提訴。2006年、最高裁で国の責任を認める判決が確定した。
同種訴訟が全国で起こされ、11年、国が患者に50万~3600万円の給付金を支払うことで合意。12年には特別措置法が施行され、注射器使い回しが確認されたり母子感染が確認されたりすれば、同様に給付金が支給されることになった。
ただ、集団予防接種による感染疑いがある推計45万人のうち、今年5月末までに支給された患者(遺族含む)は約2万6700人にとどまる。
支給手続きが遅れる要因には、審査を担当する職員の不足があるとされる。15年度以降、毎月約1千人が新規提訴しているが、厚労省の担当者は17年度で52人にとどまる。弁護団によると、過去に3カ月で終わることもあった和解手続きが、最低でも1年はかかるようになっており、審査の迅速化を求めている。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASHC07H1T_12062017AC1000/