集団予防接種によるB型肝炎訴訟で、1993年に死亡した兵庫県の男性について、遺族と国が17日、大阪地裁(菊地浩明裁判長)で和解した。診療記録が残っていなかったが、主治医の法廷証言で死因と肝炎の因果関係が認められ、国が3600万円を支払う。
カルテなどの診療記録がない患者について、国が和解に応じるのは極めて珍しく、弁護団は「被害者の救済につながる」と期待している。
男性は84年ごろに慢性肝炎を発症し、45歳だった93年に肝がんで死亡。遺族が2013年に提訴した。
保存期限が5年のカルテは既に廃棄され、症状を示す他の記録も残っていなかった。遺族は2年近くかけて当時の主治医を捜し出し、陳述書を提出した。
国側は信用性に疑問を示したが、遺族側が同種訴訟では初めて医師の証人尋問を実施。主治医は男性の症状を鮮明に覚えていると述べ、国は一転して和解に応じた。
和解後に記者会見した長野真一郎・弁護団長は「カルテがないことなどを理由に、提訴を諦める人が多い。救済の幅が広がる可能性がある」と評価した。
厚生労働省などによると、88年までの集団予防接種で約45万人がB型肝炎に感染したと推計。国は因果関係を認めれば症状に応じて50万~3600万円の給付金を支払うが、和解が成立したのは約4万7000人(今年3月時点)にとどまる。