アデノウイルスは50種類以上の型が報告されており、それぞれの型によって、咽頭(いんとう)炎、へんとう炎、肺炎などの呼吸器疾患、結膜炎などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患など、多彩な症状を引き起こすことが知られています。
感染経路は、患者さんのせきやくしゃみで飛び散るウイルスを含む粒子による「飛沫(ひまつ)感染」、患者さんの皮膚や粘膜などに直接触れたり、患者さんが触れてウイルスが付着した物体に触れたりすることによる「接触感染」、手洗いが不十分であることなどで患者さんの便中のウイルスを経口摂取する「経口感染」など多様です。体の外に排出された後でも、感染力を長時間維持できる強いウイルスなので、感染した人が触った物や、プールの水も感染源になります。
日常よく見られるアデノウイルス感染症について簡単に説明します。
①呼吸器感染症=へんとうに白いうみを伴う、急性の咽頭へんとう炎があります。38~40度以上の高熱が3~7日間続き、のどの痛みで水分が取れなくなり、ぐったりした様子で外来を受診する患者さんがいます。上気道の感染がほとんどで、下気道の感染は非常にまれですが、アデノウイルス7型で重症の肺炎を発症したという報告もあります。
②流行性角結膜炎=充血や目やにのほか、「涙が流れる」「まぶしい」といった症状が出ます。症状が重く、感染力も強いので、子どもだけでなく、大人も注意が必要です。角膜混濁が数カ月続くこともあり、眼科での早期診断と適切な治療が重要となります。
③咽頭結膜熱=急性咽頭へんとう炎の症状に結膜炎を伴うものです。主にアデノウイルス3型が原因です。プール熱とも言われ、夏に流行します。プールで流行するのは、プールの水が直接目に入ることやタオルの貸し借りが原因と考えられるので、プールに入った後には、十分にシャワーを浴びる、症状がある場合はプールに入らない、といった注意が必要です。
④急性胃腸炎=発熱、嘔吐(おうと)、下痢などの症状が出ます。乳幼児に多く、保育園での流行が見られることがあります。ロタウイルスと同じように白色の下痢が見られます。便の中にウイルスが排泄(はいせつ)されるので、患者さんだけではなく、おむつ交換をする保護者の方や保育園の保育士さんも含め、感染予防のうがい、手洗いをしっかり行うことが重要です。
アデノウイルス感染症は、外来で10分以内に調べられる迅速キットというものがありますので、症状や身体所見から疑わしい場合は検査をすることがあります。
アデノウイルスには抗生物質は効きません。また、アデノウイルスに対する抗ウイルス薬もありませんので、治療は、症状を和らげる対症療法が主体になります。対症療法とは、症状を和らげる治療のことであり、せき、鼻水、のどの痛みを和らげる風邪の薬や、熱を下げたり、痛みを和らげたりする解熱鎮痛剤のことです。
感染した場合は、自宅で安静にし、十分な水分を摂取することが重要です。水分が摂取できずに尿の量が少ない、口が乾燥しているなど、脱水症状が見られる場合は点滴が必要となりますので、早めに医療機関を受診して下さい。
咽頭結膜熱(プール熱)と流行性角結膜炎は、学校保健安全法施行規則で出席停止期間が決められています。プール熱は「主要症状が消退した後2日を経過するまで」、流行性角結膜炎は「医師が感染のおそれが無いと認めるまで」です。医療機関をしっかりと受診するようにしましょう。