【アニサキス】アニサキスに効く薬なし!「焼く・冷凍」で予防徹底を
2012年からアニサキス食中毒の
届け出が義務化
アニサキスによる食中毒がちょっとした話題となっている。芸能人の渡辺直美氏が複数のテレビ番組で激痛など症状の辛さを語ったことをきっかけに、実はあの芸能人も被害に! と話が広がった。新聞などのメディアも「アニサキス10年で20倍」(毎日新聞)といった具合に続いているが、実際のところそこまで患者が増えているのだろうか。
2012年に食品衛生法施行規則の一部が改正されたことでアニサキス食中毒患者の届出が義務化された。よってそれ以降、届出患者数が急増するのは当然のことである。その一方で、アニサキス食中毒の届出がないケース、医者にかからないケースも多いとされるので、患者の総数の正確なところはわからない。2005年から2011年の症例数が年平均で7147件との推計があるので、年に1万人近くが苦しむ、珍しくはない病気とはいえる。
届出患者数をもとにした過去3年間のアニサキスによる食中毒発生状況を見ても、患者が増えているとも減っているとも判断できない。数年前から注意喚起がなされ患者の届出も義務化されたという事実から、厚生労働省が危機感を持っている=患者が増えているのだろうと推測することは可能だが、すっきりしない。
死に至る病ではないが
死ぬほどの苦痛
増減傾向は不明だが、誰でもかかりうる身近な病気であることは確かである。アニサキスは寄生虫の一種で、アニサキス食中毒はサバ、イワシ、カツオ、サケ、イカ、サンマ、アジなどの魚介類の内臓に寄生したアニサキスの幼虫によって引き起こされる。幼虫は白い糸のような形状で大きいものは長さ3cm、太さは1mmと、肉眼で確認できるサイズだ。宿主である魚が死ぬと内臓から筋肉に移動する習性を持っている。
生、もしくはそれに近い状態で魚介類を食べた後、胃腸にこれまでに経験したことのないような痛みを覚えた場合は病院へ直行したほうがいいだろう。アニサキス幼虫は人間の体内では数日しか生きられないが、それまでの間に暴れまくるのだ。死に至る病ではないのに死ぬほどの苦痛を味わうことになる。
宿主である魚介類から離れたアニサキス幼虫は胃壁や腸壁を刺して中に入り込もうとする。急性胃アニサキス症では、食後数時間後から十数時間後に、みぞおちを何かに刺されているような激しい痛みを感じ、悪心、嘔吐も伴う。アニサキス幼虫が胃より先の腸に侵入した急性腸アニサキス症の場合、食後十数時間後から数日後に、激しい下腹部に痛みや腹膜炎の症状が出る。なおアニサキスによる食中毒の多くが前者の急性胃アニサキス症である。
急性胃アニサキス症への対処は、胃内視鏡の検査で胃粘膜に入った幼虫を見つけたら「鉗子(かんし。ハサミのような手術器具)で摘出する」というシンプルなもの。急性腸アニサキス症では幼虫を直接摘出することが難しいため、とりあえず痛みをやわらげるといった対症療法が試みられる。幼虫が死んで体内に吸収されるか便とともに排出されるのを待つのだ。
駆虫薬はなし! 加熱か冷凍、
生食しないのが一番の予防
現時点ではアニサキス幼虫に対する効果的な駆虫薬は存在しない。よって予防が重要となる。厚生労働省の注意喚起では、事業者に「加熱」「冷凍」「内臓の除去」「目視による除去」などの徹底を呼びかけている。アニサキス幼虫は60℃の加熱では1分で、70℃以上では瞬時に死滅するのだ。また同喚起ではマイナス20℃で24時間以上冷凍することでも死滅するとしている。
消費者への注意点には「内臓を生で食べないこと」「目視で確認し、幼虫がいたら除去すること」などがある。加えて太字で「一般的な料理で使う程度の食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても、アニサキス幼虫は死滅しません」と強調されているのは、それらの効果が過大に伝えられているせいでもある。
鮮魚店などでは肉眼での確認はもちろん、アニサキスが主に寄生する内臓の処理とそれ以外の部位では別のまな板を使うなど細心の注意を払っているので、まず問題はない。ほとんどの人は家庭や飲食店でアニサキスの幼虫を「目視」したことなどないだろう。
とはいえアニサキスなどの寄生虫による害から身を守る一番の方法は、魚介類を生に近いかたちで食べないことだ。現状は魚介類の生食を好む人が、それをあきらめなければならないほどアニサキスが大量発生しているわけではないが、生食にこだわりがない人は魚介類には必ず火を通して食べることにしたほうが無難である。
http://diamond.jp/articles/-/132185