2018/11/14【インフルエンザ】ゾフルーザ、画期的インフルエンザ治療薬に懸念点

早いもので、もう今年も残すところ2カ月を切った。冬はクリスマス、正月と楽しいイベントも多くあるが、その一方で私たちを戦々恐々とさせる「インフルエンザ」が猛威を振るう季節でもある。

インフルエンザ罹患による重症化を防ぐため、インフルエンザワクチン摂取の推奨に力が注がれている昨今であるが、それでもインフルエンザの感染者数は減少しないのが現状だ。インフルエンザは、症状がつらいだけではなく、周囲の人への感染リスクも高いのが厄介な点である。今年はインフルエンザ治療薬として新薬「ゾフルーザ」が登場し、関心を集めている。

そこで今回、ゾフルーザについて、桶川みらいクリニック院長の岡本宗史医師に話を聞くと共に、ゾフルーザの製造販売元である塩野義製薬(シオノギ製薬)に取材を試みた。

ゾフルーザのメカニズム

「従来の治療薬であるタミフルなどは、ノイラミニダーゼ阻害薬(増殖したウイルスを、その細胞の中に閉じ込めることによって拡散を抑制する薬)であるのに対して、ゾフルーザはエンドヌクレアーゼ酵素阻害薬(ウイルスの複製を抑制する薬)で、作用機序が異なります」(岡本医師)

インフルエンザウイルスは、体内に入ると細胞から細胞へと拡散し、増殖を広げていくのだが、タミフル、リレンザ、イナビルなどの従来のインフルエンザ治療薬は、細胞内で増えたウイルスがほかの細胞へ拡散していくのを抑え、周りで増殖していくのを防ぐ。これに対しゾフルーザは、「ウイルスそのものの増殖を抑える」ため、より速やかな効果が期待される。

感染リスクを下げる

「公表されているデータによると、罹病期間の短縮はタミフルと同様だったようですが(成人対象)、抗ウイルス作用はタミフルを上回っており、感染ウイルス量の減少速度が速いことから、周囲への感染抑止効果も期待されると考えられます。しかし、あくまで実験データであり、現時点では実際の周囲への感染抑止については、比較データがありません。今までタミフルなどのノイラミニダーゼ阻害薬は感染後24時間経過してからの内服に意義はありませんでしたが、ウイルス量の体内での減少速度と周囲への感染率が相関するのであれば、ゾフルーザは発症から24時間以上経過したあとの内服にも意義を見いだせると考えます」(同)

インフルエンザによる症状が終息するまでの期間はタミフルとほぼ同様だが、ウイルスそのものの増殖を抑えるゾフルーザは、周囲への感染リスクを下げることが期待できる点が大きい。しかし、その点は今後のデータによって評価されることになる。

メリットはその服用方法

「メリットとしては、圧倒的に服薬アドヒアランス(患者が納得して自らの意思で行動すること)の向上が大きく期待されることです。また、国内第3相試験では、成人・小児ともに副作用が低いのもメリット。現時点では、タミフルで問題となった異常行動は認められていないと、メーカーが公表しています。当院でも、高齢者の患者が多く、服用の負担軽減と先に述べたような効果に期待し、懸念事項を念頭に置きながらではありますが、ゾフルーザを処方しています」(同)

従来の治療薬は、タミフルなら1日2回5日間服用。また、リレンザ、イナビルなどは吸入であり、これは子供や高齢者には容易ではなく、確実に服用できていない可能性も危惧される。これに対し、ゾフルーザは1回の服用で終了するため、服用に伴う患者の負担が最小限であることは間違いない。ちなみに、用法用量は以下の通り。

【用法・用量】
1.通常,成人及び12歳以上の小児には,20mg錠2錠又は顆粒4包(バロキサビル マルボキシルとして40mg)を単回経口投与する。ただし,体重80kg以上の患者には20mg錠4錠又は顆粒8包(バロキサビル マルボキシルとして80mg)を単回経口投与する。

2.通常、12歳未満の小児には、以下の用量を単回経口投与する。
体重40kg以上:20mg錠2錠又は顆粒4包(バロキサビル マルボキシルとして40mg)
体重20kg以上40kg未満:20mg錠1錠又は顆粒2包(バロキサビル マルボキシルとして20mg)
体重10kg以上20kg未満:10mg錠1錠(バロキサビル マルボキシルとして10mg)
(ゾフルーザ添付文書抜粋)

懸念事項の実態はこれから

メーカー広報部へ電話取材したところ、以下のような見解を示した。

「今後、ゾフルーザがシオノギ製薬の主力医薬品となることは間違いないと思います。臨床試験、また3月の薬価収載以後の使用状況を見ても、現時点での大きな有害事項の報告はなく、服用に伴うリスクは限りなく低いと思われます」(シオノギ製薬広報部)

筆者も、作用機序から見ても「安全な薬」と評価してよいと考えるが、今後、さらなる追跡が必要と思われる点がひとつある。その点は岡本医師も同様だった。

「12歳未満の小児を対象とした国内第3相臨床試験において内服前後で、ウイルスのRNAポリメラーゼのアミノ酸変異(マイナーチェンジ:小変異)を認めたとの報告があります。RNAポリメラーゼのひとつのサブユニットに、ゾフルーザが作用するキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性があることから、変異ウイルスはゾフルーザの感受性を低下させることが知られています。ただ、この変異株のウイルスの出現が、臨床においてどれだけの悪影響をもたらすのかは不透明であるため、今後注意深く経過を見ていく必要があるといえます」(岡本医師)

つまり、ゾフルーザの服用によって、ゾフルーザに耐性を持ったインフルエンザウイルスが発現する可能性があるということである。

ゾフルーザの研究開発から臨床試験、現時点での使用状況から見て、ゾフルーザが患者にとって「良い薬」であると評価できるのは確かだが、どんな薬にもその効果には「固体差」があることも否定できない。今後、医療現場では医師、薬剤師共にゾフルーザの服用後の経過確認をしっかりと行うことが義務となるだろう。

https://biz-journal.jp/2018/11/post_25485.html
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