2019/03/05【インフルエンザウイルス】インフルでも会社が「休むな」 法的に許される?
Case:50 インフルエンザにかかって高熱が出ているにもかかわらず、部長から「A君も先週インフルエンザにかかっていたが、念のため『休むか?』と聞いたら志願して出社していたぞ。君だけ特別扱いはできないなぁ」と言われ、休ませてくれません。これは法律上問題があるのではないでしょうか。
■季節性のインフル、就業制限の対象外
あなたが罹患(りかん)したインフルエンザはAさんのウィルスによるものかもしれませんね。早晩、この部長も罹患するような気がします。
この冬、猛威を振るうインフルエンザ。各地で学級閉鎖や学校閉鎖が相次いでいます。学校の場合には学校保健安全法という法律があり、その施行規則でインフルエンザは「予防すべき感染症」になっているので、インフルエンザにかかっている児童・生徒の出席停止(期間については規則で「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」と定められています)や予防上必要がある場合の学校の全部または一部の休業、つまり学校閉鎖が法令上規定されています。
ところが、働いている人がインフルエンザに罹患した場合の出勤停止などについて、実は法律上、直接的な規定がないのです。
労働安全衛生法は「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」と規定しています。しかし、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」で、新型インフルエンザはこれに該当するものの、季節性インフルエンザは就業制限の対象外である「5類感染症」とされているのです(ノロウィルスなども5類感染症となっており、就業制限の対象外です)。
■労働契約法に安全配慮義務
就業が法律で禁じられる新型インフルエンザとなると、日本では2009年に発生した豚由来のインフルエンザA(H1N1)pdm09まで遡ることになります。
毎年流行しているインフルエンザの大半は季節性インフルエンザなので、罹患した社員の出勤禁止を強制する法的根拠がないようにも思えます。
しかし、使用者(会社)は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をすることが労働者契約法で義務付けられています。たとえ季節性インフルエンザであっても、罹患している社員を出勤させればその社員の病状が悪化するだけでなく、職場の同僚に感染してしまう可能性も高くなります。
また、それが営業社員であれば、ウィルスを取引先に拡散することにもなりかねません。社員の安全を配慮する義務を負っている使用者(会社)はこのような場合、罹患した社員を休ませてその社員の健康を快復させること、そして他の社員などへの感染を防ぐことが強く求められます。
■損害賠償義務を負うことも
インフルエンザは最悪、死に至ることもある疾病です。もし、会社がこのような義務を怠り、症状が重篤化したような場合、あるいは社内に感染が拡大した場合には、会社が安全配慮義務違反として損害賠償義務を負うこともありうるでしょう。
そもそも労働基準法上、社員は原則として有給休暇を自由に取得することができ、会社が有給休暇を取得する日の変更を求めることができるのは、事業の正常な運営を妨げる場合に限られています。病気で休むのを止めることはできません。このため、インフルエンザに罹患した社員に会社が出社を強制することは法的にできないのです。
さて、相談のケースでAさんはインフルエンザに罹患したにもかかわらず、「志願して」出勤していたようです。
■社員の出勤を禁止できるか
高熱が出ていれば、さすがに本人も出勤する体力・気力がないでしょうが、今年流行のインフルエンザはあまり熱が上がらないとも聞きます。また、熱が下がって体が楽になっても前述のとおり、2日間は休まなければなりません。解熱してすぐ出勤されても周囲が感染します。このような場合、インフルエンザに罹患した社員の出勤を、逆に会社が禁止することは可能でしょうか。
前述のとおり、季節性インフルエンザは法律上の就業禁止には該当しないため、「インフルエンザでも出勤したい」という社員を強制的に休ませるには就業規則上の根拠が必要になります。多くの会社では「伝染性の疾病以外でも感染のおそれのある疾病にかかり、医師が就業不適当と認めた者についてはその事由が消滅するまで就業を禁止する」(あるいは「禁止することができる」)という趣旨の規則を置いているのではないでしょうか。
出勤を望んでいる社員を強制的に休ませるわけですから、補償が必要になってきます。労働基準法では使用者(会社)の責任による休業の場合、平均賃金の6割以上を払うよう定めており(休業手当)、会社は少なくともこの手当を支給する必要があります。
しかし、休業手当では給与の6割しか出ませんので、実際は社員の側で年次有給休暇を取得する場合が多いかと思われます。その場合には休んだ日も給与が支払われることになります(ただし、会社が一方的に年次有給休暇を消化させることはできません)。入社したばかりで年次有給休暇取得の権利が発生していない社員、すでに年次有給休暇を消化してしまった社員などは、休業手当を請求することになるでしょう。
なお、前述した新型インフルエンザの場合には就業禁止が法定されているのでこれは使用者(会社)の責任にならず、休業手当は不要です。もちろん、社員が年次有給休暇を使うことは問題ありません。
■快復するまで休養、会社も奨励を
先月、インフルエンザに罹患していた女性社員が地下鉄日比谷線の線路に転落して死亡するという痛ましい事故が起きました。転落とインフルエンザとの因果関係は判明していませんが、もし女性が健康な状態であれば発生していなかった事故である可能性も否定できません。
インフルエンザやノロウィルスなど感染性のある病気にかかってしまった場合には、快復するまでしっかり休みましょう。会社もこれを奨励することがかえって生産性向上につながります。気合や根性ではインフルエンザは克服できないのです。
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