2018/06/11【エボラ】エボラ出血熱「一刻の猶予もない」 衛生エキスパートが見た集団感染の脅威 /コンゴ
【エボラ】エボラ出血熱「一刻の猶予もない」 衛生エキスパートが見た集団感染の脅威 /コンゴ
エボラ出血熱の集団感染が続くコンゴ民主共和国 (以下、コンゴ)。エボラ出血熱は致死率が極めて高いことで知られ、西アフリカ諸国で大流行した2014~2016年には約1万1300人が亡くなった。現地保健省によると、今回の流行宣言が出された2018年5月8日以来、同国内で37人の新規感染と27人の死亡が確認されている(6月6日現在)。
国境なき医師団(MSF)は、エボラ流行が始まった赤道州に経験豊富なスタッフを派遣して緊急援助にあたっている。感染を食い止めるために最前線で奔走したMSFの水・衛生エキスパートが、エボラ出血熱の脅威を語った。
エボラ感染者が出たら真っ先に取り組むことは?/ポール・ジャウォル
空路でコンゴ赤道州の州都ムバンダカ市に到着したのは、5月20日午前のこと。人口100万人以上を擁する同市内で複数の症例が報告されたことを受けて、MSFはエボラ治療センターを設置しました。私たちの任務は、さらに120km南下したイボコ村での援助を始めることでした。この村でもエボラウイルス感染者が出ていたんです。
着陸してすぐに物資をレンタカー3台に詰め込み、1時間後に車で出発しました。アウトブレイク(※)への対応は一刻を争う。患者が1人出れば、毎日何人もの人が感染する恐れがあるのです。感染拡大を防ぐには、できるだけ早く全ての手立てを講じなければ。時間との闘いは始まっているのです。
感染症が限られた範囲または集団で、予想よりも多く発生する状態
一刻も早く患者の元へ……道なき道をゆく
道のりは長く、イボコ村の手前にある村に着いたころにはもう夜でした。壊れた木造の橋を何本も修復して進まなければならなかったのです。橋を渡るときに車1台が脱輪し、戻すのに何時間もかかったことも……。途中で機器の不具合にも見舞われました。
その夜は修道院の敷地にテントを張って野宿し、そこから車で2~3時間のイボコ村に向けて再び出発しました。
イボコ村の中心には教会があり、草ぶきの家が取り囲むように立っています。教会には病院の機能もあり、周辺の村々などに対応しているんです。MSFチームは住民や村の代表に私たちの役割を説明し、エボラの感染経路や衛生管理などの情報を提供しました。村の人たちは快く迎えてくれましたが、エボラをとても恐れている様子もうかがえました。
私は現地スタッフを採用し、隔離病棟やトイレ、シャワー室、更衣室、廃棄物処理場の設置を最優先に進めました。設置は24時間で完了し、エボラの疑い患者を受け入れる態勢が整いました。
一時間にわたる除染作業
課題は、地元で広報活動をしているにも関わらず、エボラに似た症状のある人たちが来院も検査もしたがらないことです。治療センターが遠く離れているために自宅待機を選ぶ人もいますが、看病する人が新たに感染する可能性があり、非常に危険です。
ある女性は、イボコから19kmほど離れたボバレという村で亡くなりました。エボラの感染が確認されていたにも関わらず、自宅療養を選んでいたんです。すぐに連絡が入り、同僚と赤十字社のスタッフも一緒に3人で現場に向かいました。非常に感染力の強い遺体が適切な方法で埋葬されるようにするためです。感染の拡がりを食い止めるためには自宅を除染し、遺体を安全な遺体袋に入れ、密閉された棺に納める必要があるのです。
除染にかかった時間は1時間。防護服の中で汗をかきながら噴霧剤をまき、同様に防護装備を着用したご主人の立会いのもと、故人の尊厳に配慮した方法で遺体を消毒しました。それから、女性の衣服や寝具をはじめ、ウイルス汚染の恐れがあるものを全て1つの袋にまとめ、塩素を吹きかけました。その袋をさらに別の袋で覆い、それにも塩素をかけ、またさらに別の袋で覆い……。最後はイボコの治療センターに持ち帰り、焼却しました。
エボラの拡大を防ぐ最大の方法は、へき地に暮らす人びとに治療を受けてもらうことです。そのためには、感染の予防方法をもっと多くの人に知ってもらわなければなりません。
MSFはコンゴ赤道州内4ヵ所に拠点を置き、エボラ対応の経験豊かな外国人スタッフ75人と現地採用スタッフ360人を配置している。州都ムバンダカ市およびビコロ、イボコには入院治療施設を備えたエボラ治療センターを設置。患者と直接・間接的に接触した人びとの追跡調査や地域での啓発活動を行い、予防策や安全な埋葬手順について説明している。
遠隔地のイティポでは感染が疑われる人びとを検査結果が出るまで隔離してケアする一時滞在センターを設置し、ウイルスに陽性反応を示した人はエボラ治療センターに転送している。