東京都は10月31日、「ノロウイルス等による感染性胃腸炎に注意ください!」とホームページで呼びかけました。例年、11月から2月にかけて、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が多発するからです。このノロウイルスは、食中毒を起こすだけでなく、空気感染もするのです。
感染力が強くウイルス10個で発症
「感染性胃腸炎の原因になるウイルスは、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルスなどがあり、腹痛、下痢、おう吐、発熱といった症状を引き起こします。特にノロウイルスは感染力がとても強く、わずか10個のウイルスが体内に入っただけで発症します」というのは、横浜相原病院(神奈川県横浜市)の吉田勝明院長です。
ノロウイルスが人の体内に入ると、腸管内で増殖し、患者のふん便やおう吐物に1gあたり100万個から10億個もの大量のウイルスが含まれています。
おう吐物などの処理を適切に行わないと、ウイルスがまき散らされ、感染がさらに拡大します。幸い症状は軽く、通常は3日以内に回復しますが、体調が回復しても1週間、長ければ1ヵ月にわたり、ふん便中にウイルスが排泄されることがあり、感染拡大につながるのです。
食中毒以外の感染ルートも
ノロウイルスが集団感染する経路は大きく分けて2通りあります。
「ひとつは、人のふん便中のノロウイルスが下水を経て牡蠣など二枚貝に蓄積され、それを十分に加熱しないまま食べたり、ノロウイルスに感染した人が十分に手を洗わずに調理した食品を食べるなどして経口感染する食中毒です」(吉田院長)
ノロウイルスは85℃以上で1分間以上加熱すると感染力を失うので、牡蠣鍋や牡蠣フライなどは十分加熱してください。また、調理する人は十分に手洗いをしてください。
「もうひとつの感染ルートは空気感染です。感染した人のふん便やおう吐物が乾燥すると、付着したホコリとともにノロウイルスが空気中に漂い、これを吸い込んで感染するのです」(吉田院長)
このほか、感染者が排便後に手を洗わずに触れたノブなどを介して感染する接触感染、感染者がおう吐したときなどの飛沫を吸い込んで感染する飛沫感染もありますが、集団感染はまれです。
ホテルで300人以上が空気感染
「空気感染によるノロウイルスの集団感染としては2006年12月に東京・池袋のホテルで発生した事例が知られています」と吉田院長が事例を紹介します。
ホテル利用客がホテルの3階と15階でおう吐し、その際にノロウイルスがじゅうたんに付着。じゅうたんが乾燥すると、そこを人が歩くたびにノロウイルスが浮遊し、空気感染したのです。発症者はホテルの利用客や従業員ら364人に上りました。こうした空気感染は残念ながら防ぎようがありません。
ノロウイルスの予防は手洗いが基本
「ノロウイルスの予防法の基本は手洗いです。特に排泄後やおう吐物を処理したあと、調理や食事の前には石けんと流水で十分に手を洗います。ふん便やおう吐物を処理するときは、使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用し、次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)で消毒します」(吉田院長)
ノロウイルスに効く薬はありませんが、感染が疑われる場合には早めに医療機関を受診してください。