2017/07/21【フィラリア】猫も蚊に刺される? 蚊取り線香や駆除薬でアレルギー症状・フィラリア対策を
【フィラリア】猫も蚊に刺される? 蚊取り線香や駆除薬でアレルギー症状・フィラリア対策を
夏は猫も蚊対策が必要です。犬は必ずといっていいほどフィラリア症の予防を勧められますが、猫はどうでしょう。猫は「フィラリア症の予防」という概念がそこまで浸透しておらず、認知度は低いように感じます。今回は猫の蚊によるフィラリア症やアレルギー症状について、また蚊取り線香などを使った対策について、白金高輪動物病院総院長の佐藤が解説します。
フィラリア症は、猫にも存在します。最近では猫は室内飼育が一般的になり、犬よりも外に出ないことから大問題にはなっていませんが、原因が分からない突然死の中にはフィラリア症によるものも存在することでしょう。また、獣医療の進歩により猫もフィラリア症が発見できるようになりました。そのようなこともふまえ、今回は蚊が猫におよぼす悪影響についてお話しします。
猫も蚊に刺されます! その症状は?
猫ももちろん蚊に刺されます。しかし、人のように刺された部分が膨らんで痒がるようなことはまれで、一般的ではありません。猫の場合は、蚊に刺された部分というよりは、アレルギー反応により特定の場所に痒みなどがみられることがわかっています。刺された部分も痒みや腫れなどが出る可能性はありますが、毛に覆われて蚊に刺された直後は判断がつかないこともあります。
発症する可能性のある病気
蚊刺咬過敏症(ぶんしこうかびんしょう)
アレルギー性の皮膚炎である「蚊刺咬過敏症」を発症する可能性があります。蚊刺咬過敏症は、その名の通り過敏症の一種です。猫では、鼻梁部(眉間~鼻の先までの部分)と耳介(外に張り出している耳の部分)が症状の出る典型的な部位です。
痒みを伴い、丘疹(皮膚の突起)、脱毛、膿疱(水疱が膿んで、うみのたまったもの)、びらん(水疱や膿疱が破れたもの)、痂皮(かさぶた)がみられます。耳介では左右対称に色素の脱落などがみられる場合もあります。鼻梁部は腫れることが多く、肉球では角質が増えたり痂皮がみられることが分かっています。リンパ節腫大もみられることがあります。
フィラリア症
猫が蚊に刺されることで発症する可能性がある病気の中で、危険性が高いのがフィラリア症です。犬と同様に、犬糸状虫(フィラリア、英:Dirofilaria immitis)が寄生することで発症します。では、このフィラリア症とはどのような病気なのか詳しく述べていきましょう。
猫のフィラリア症には、犬とは違う盲点が隠されています。それは、少数の犬糸状虫の寄生であっても生命を脅かす可能性があるという点です。下記の内容は、American Heartworm Society「猫の犬糸状虫感染症の診断・予防・管理のガイドライン」で紹介された情報をもとに作成しています。日本でのエビデンスが乏しいため、アメリカの情報となります。
フィラリア症を媒介する蚊は、一般的にイエカ種(Culex spp.)とされています。猫の犬糸状虫は犬の犬糸状虫と大きく違い、宿主(猫)と寄生虫(犬糸状虫)の関係が部分的にしか適応していません。言い換えると、猫の犬糸状虫への抵抗性は強いと言えます。「犬に感染幼虫を100隻ずつ注入した場合はほぼ100%の犬で平均60隻が成虫まで発育するが、猫の場合は約75%の猫で平均3~10隻が成虫まで発育するにすぎない」という報告もされています。
犬糸状虫の具体的な感染ルートは、
メスの蚊が、犬糸状虫に感染している犬の循環血液中から吸血によりミクロフィラリア(犬糸状虫の幼虫名)を取り込む
数時間で、蚊の体内でミクロフィラリアがL1(第1期)幼虫になる
さらに2−4週間かけてL3(第3期)幼虫になる(期間は平均気温によって異なる)
幼虫を保持した蚊が猫に吸血し、猫に犬糸状虫が感染する
といったものです。
猫では未成熟虫の多くが肺動脈への到達直後に死亡し、死滅虫体になります。しかし一部の未成熟虫が成虫まで成長することもあり、その場合は成虫が2〜4年間生存します(※3、※4)。
フィラリア検査って猫にも必要?
このような質問は多く寄せられます。答えは「状況に応じて必要」です。その理由を分かりやすくお伝えいたします。
猫の場合、犬糸状虫による呼吸器症状は多いものの、さまざまな症状を呈することより診断を困難にしているといえます。検査方法は犬と同様のものですが猫の場合、犬では一般的なミクロフィラリアの検出はほとんどないといわれています。
血清学的検査としては、抗原および抗体検査があります。抗原検査は主に犬で使用されますが、猫の場合はオス虫の単性感染もしくは症候性の未成熟虫が多いため、信頼できる検査キットはありません。雌一隻の感染検出には利用できます。感染後、5.5~8カ月で検出可能な抗原血清が発現します。抗体検査では、感染して2カ月で感染したことだけを検出することは可能です。
レントゲン検査では、主要な肺動脈および肺動脈末梢部にわずかな拡張が見られたり、場合によっては蛇行および切り詰めが見られることなどがあります。心臓超音波検査では、肺動脈および右肺葉枝において犬糸状虫が最も頻繁に観察されます。
生前診断ではなく、剖検による診断が行われる場合もあります。しかし、総合的判断が必要であるのと、診断が非常に困難であることに違いはありません。
猫のフィラリア症の症状は?
猫のフィラリア症では、全く臨床徴候(実際の症状)を示さない猫もいます。むしろ、症状があることよりも、ないことの方が多いかもしれません。しかし、徴候が現れる場合としては、二つの病期で顕著な徴候が見られるといわれています。
未成熟虫が肺血管系に到達する時期。感染後3〜4カ月で、咳や呼吸促迫を伴う「犬糸状虫随伴呼吸器疾患(HARD)」と呼ばれる。
犬糸状虫の成虫が死滅する時期。一隻の犬糸状虫感染であっても、致死的な急性肺損傷にいたる。
どちらの時期にも起こる可能性がある徴候としては、沈鬱、消化器症状、神経症状などあらゆる徴候が報告されています。一番多いのは呼吸器症状ですが、さまざまな症状を呈することもあります。とはいえ、この二つの病期が必ずしも出るわけではないため、感染が発見されずに突然死に至る可能性があるのです。
飼い主からの臨床症状にはばらつきがあり、咳、呼吸困難、嘔吐などさまざまです(Atkins et al. 1998,2000)。元気や食欲が無くなったり、体重の減少なども報告されています。発作や失明などの中枢神経徴候も見られるようです。
犬のような肺高血圧やうっ血性心不全などの症状はまれで、喘息は感染して3〜4カ月で起こることが多いことも分かっています。それ以外にも、腹水、胸水、乳び胸、気胸、運動失調、失神などが報告されていますが、一部の猫では重度の呼吸困難、虚脱、突然死を起こすこともあるようです(Nelson et al.2005)。その一方で、おおよそ1/3の罹患猫は無症状です(Nelson 2008a)。
フィラリア症の治療法
猫の糸状虫の殺滅は死につながる塞栓症や壊死を引き起こす危険性が非常に高いので(McIntosh and Daniel 1999)、通常は支持療法(副作用を軽減しつつ、症状を緩和させる治療法)で管理します。ステロイドや気管支拡張薬、ドキシサイクリン、イベルメクチンなどの投薬により行います。外科手術による虫体の除去も考慮の一つとなります。
フィラリア症への感染を防ぐために
まずは、蚊に刺されないための予防を取りましょう。
蚊取り線香による室内の予防。蚊取り線香の業者いわく、十分な換気を行った状態で使用可能ということです。室内にいる蚊の退治をすることも重要です
蚊を取る空気清浄機の使用。こちらも室内の蚊を除去する効果としてはよいかもしれません
猫を野外に出さない
蚊の忌避剤として水溶性希釈ピレスリンスプレーを使用。市販に売っているものは猫にとって毒性を持っている可能性もあります
そして、蚊に刺されないように予防することはもちろんですが、いつ何時蚊に刺されるかはわかりません。人でも、どれだけ虫除けスプレーなどをしても外にいれば蚊に刺されます。では、蚊に刺されてしまった後にフィラリア症にならないためにはどうしたら良いのでしょうか?
それは、意外に簡単ですが、毎月1回投薬をするだけです。
ただ、これは蚊に刺されないための予防ではありません。蚊に刺されて万が一フィラリアが感染してしまった時の予防法です。飼い主さんによっては、「予防薬」という言い方をするだけに、「この薬を飲んだ後1ヶ月は大丈夫」という認識を持ってしまう方がいらっしゃいますが、それは間違いです。この薬は、蚊に刺されてフィラリア症に感染してしまった時に体に入り込んだフィラリアを駆除するための駆除薬なのです。
意外に知らない方が多いため注意が必要なのですが、現在動物病院で処方している薬はすべて同じで「駆除薬」です。ですので、夏を過ぎた後の最後の投薬を忘れてしまうと、次の年にはフィラリアの虫が成長している可能性もあります。フィラリア症や薬について正しく理解を深め、くれぐれもその年の最後の投薬を忘れないように心がけましょう。
猫が蚊に刺された時の対処法
蚊に刺されたことによる痒みなどの症状が部分的であれば、ステロイドの外用薬を塗ると良いでしょう。しかし、症状が全身的や広範囲にわたるのであればステロイドの内服薬が必要になります。
ただ、蚊に刺されたところを見たのであれば、どこの部分が蚊に刺されたかがわかりますが、通常は普通の湿疹と判断もつかないため非常に判断しづらいと思います。痒がっている場合は刺された部分を掻き壊してしまう可能性もあるので、エリザベスカラーをつけて二次的な被害を避けることも必要です。猫の場合は特徴的なアレルギー症状を呈しますので、比較的治療を行いやすいと思われます。
まずは「猫が蚊に刺されない」努力を!
現在、猫で問題になる蚊に刺された時の病気は鼻の先と耳介部の皮膚炎(アレルギー)、最も問題となる犬糸状虫症です。人でも、蚊による媒介感染症を見てみると、記憶に新しいデング熱やジカ熱、そして世界的な有名なマラリアなどが存在します。
猫の場合は犬糸状虫症が診断しづらいということもあり、突然死の原因の一つとなっています。さらに、猫でも未知なる感染症がないとは言い切れません。アジアで問題となっているのみだった感染症が日本で発見されているケースも出てきています。ですので、猫が蚊に刺されない努力をすること、もしくは予防を行うことはとても重要です。
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