【ペスト】遺体とダンス 死者敬う風習がペスト感染リスクに /マダガスカル
西インド洋の島国マダガスカルには、家族や先祖の遺体を掘り起こして新しい布で包み直し、遺体と共にダンスをするという神聖な儀式がある。だが、同国でのペストの流行に伴い、遺骨や遺体を改葬するこの行事がさらなる感染リスクとなる恐れがあるとして当局が警鐘を鳴らしている。
焼け付くような暑さの9月のある土曜日。首都アンタナナリボ(Antananarivo)郊外のアンボヒジャフィ(Ambohijafy)村では、改葬儀礼を行う人々が、熱狂的なカーニバルのような雰囲気の中で墓地に向かって通りを練り歩いていた。地元に住む大勢の人々にとって、「ファマディハナ(famadihana)」の名で知られる儀式の始まりだ。
マダガスカルの高地の村々に起源を持つこの独自の風習は毎冬、死者を敬い、死者の臨終の願いを尊重するために行われ、多数の参加者が集まる。
歴史家のマヘリ・アンドリアナハグ(Mahery Andrianahag)氏はファマディハナについて、「この国で最も普及している儀式の一つ」と述べ、「先祖を祝福したい、いつの日か先祖が戻って来られるように敬いたいという人々の気持ちを満足させる」と説明した。
行進の先頭にいた男性(18)は、そろいの服を着込んだ音楽隊が高らかにトランペットを吹き鳴らす中、儀式が始まるのを今か今かと待っていた。
「祖父や先祖の遺骨を包み直しに行くのが誇らしい。先祖に祝福を授けてもらい、僕の卒業試験がうまくいくようお願いするんだ」と話した。
一家の墓の前では、集まった男性たちが土を掘り起こし、ひつぎのふたを開けると、女性や子どもたちが中をのぞき込んだ。布を巻かれた遺体が1体ずつ取り出されてマットの上に慎重に置かれ、用意された新しい布で巻き直されていく。
「これで子孫は、今後9年間の祝福をお願いできる」と、参加者の一人は感極まった様子で話した。
■儀式に使われるマットが細菌感染の温床に
儀式には同じ村の住民が全員招待され、人々は行進に参加したり、音楽隊の演奏やごちそうを楽しんだりすることができる。ただし遺体の布を巻き直すのは家族だけで行われる。
改葬は一度きりとは限らない。5年、7年、9年に一度行われることもある。宗教儀式というより慣習に近いファマディハナは、人によっては衝撃的な光景として映るかもしれないが、参加者にとっては、音楽と歌とダンス、酒が振る舞われる熱狂的な祝典だ。
アンボヒジャフィの墓地での儀式が終わると、ベテランの参加者たちが遺体が置かれていたマットを取り上げた。次の儀式まで取っておくのだ。マダガスカルには、このマットをきちんと保管しておけば、幸運がもたらされるという言い伝えがある。
だが一部の医療関係者は、こうしたマットは細菌感染を引き起こす温床となる恐れがあると警鐘を鳴らす。
今年8月以降、マダガスカルではペストによる感染者が1100人を超え、124人が死亡している。そのため、改葬の儀式は公衆衛生当局者らにとって懸念材料となっている。
保健省の疫学問題専門家らは、ペストの流行時期がファマディハナの儀式が行われる7~10月に重なっていることを長年の観察で記録していた。保健省局長は、「肺ペストで亡くなった人を埋葬して遺体をファマディハナで取り出すと、その菌が遺体を扱った人に感染する恐れがある」とそのリスクを指摘する。
こうしたリスクを減らすために、ペストで死去した人の遺体は、改葬可能な墓ではなく無名の集合墓地に埋葬するよう定められている。だが地元メディアの報道によると、遺体が密かに取り出されたケースがこれまでに数例あったという。
当局がペスト感染の深刻な危険性について周知しているにもかかわらず、マダガスカルでは改葬儀式に疑問を持つ人々はほとんどいない。
中にはペストの危険性が誇張されている、とまで言う地元民もいる。ある女性は、「政府は(2018年に実施される)次の大統領選のお金がないものだから、金貸しから現金を引き出すために話をでっち上げている」と主張した。「私は生まれて15回、ファマディハナに参加してきたけど、ペストなんて一度もかかったことがない」
http://news.livedoor.com/article/detail/13820897/