2017/04/23【ボツリヌス症】クックパッドが悪いのか、ハチミツ離乳食レシピ問題が投げた教訓とは

【ボツリヌス症】クックパッドが悪いのか、ハチミツ離乳食レシピ問題が投げた教訓とは

ハチミツの入った離乳食を与えた生後6カ月の乳児が乳児ボツリヌス症という食中毒によって死亡したというニュースをきっかけに、ハチミツを使った離乳食をはじめ食中毒のリスクが高い料理レシピが数多く投稿されていたレシピ投稿サイト「クックパッド」に批判が高まっています。今回は、この問題が私たちのインターネット活用にどのような教訓を投げかけているのかについて考えます。

個人による投稿に信ぴょう性や正確性はあるのか

多くのユーザーがネット上の情報検索で活用している「クックパッド」「食べログ」「トリップアドバイザー」をはじめとする情報投稿サイト、「Yahoo!知恵袋」や「OKWave」をはじめとするQ&Aサイト、そして「Amebaブログ」に代表されるブログサービス。こうしたウェブサイトは、ユーザー投稿サイト「User Genarated Contents(UGC)」と呼ばれています。サイトに掲載されている情報を作り出しているのはユーザー個人であり、UGCはユーザーの知恵やノウハウを多くの人々が共有できる手段として発展してきました。今や、多くの人の知識の集合体である「集合知」として確固たる地位を形成しています。

しかし、留意すべき点は、大前提としてこうしたサイトの発信者はあくまで個人(一部のコンテンツは運営者や企業が発信する場合もある)であり、企業が情報の正確性や信ぴょう性を十分に確認して内容に対して責任をもって発信するウェブメディアとは大きく異なるという点です。もちろん、UGCに投稿するユーザー個人が自らその正確性をチェックして投稿している場合もあり、その投稿が多くの人の役に立つものであるから、UGCはここまで発展してきたことは言うまでもありません。

ただ、ユーザー個人が発信する情報には、誤っているものもあれば個人の主観や感覚で作られていて客観的な検証ができないものも含まれている可能性があります。UGCに掲載されている情報にはこうした「不安定さ」を抱えているものだということを十分に留意する必要があると言えるでしょう。

「クックパッド」の運営会社は、これまでも投稿されたレシピのチェックや食の安全に関する注意喚起を行ってきたとしており、今回の批判を受けてそれらを強化するとしています。しかし、実際のところ2016年12月時点で258万件(決算資料に基づく)という膨大な量が投稿されるレシピについて、ひとつひとつの安全性を専門家の知見を基に細かく検証するというのは、物理的に不可能に近いと言わざるを得ないのではないでしょうか。

UGCは「あくまでユーザー個人が投稿したもの(だから情報の信頼性は保証されない)だということを理解した上で利用するもの」という暗黙の了解で成り立っているものであり、運営会社はその内容に対して責任を負わないのが一般的です。クックパッドでも、利用規約の第13条では「利用者(筆者注:投稿者、閲覧者)は、利用者自身の自己責任において本サービスを利用するものとし、本サービスを利用してなされた一切の行為およびその結果についてその責任を負う」としています。UGCを活用するユーザーは、こうしたサービスの特徴を理解した上で、投稿されている内容に気になる点があったら無批判に受け入れないよう注意すべきだと言えるでしょう。

加えて、いまインターネットは企業のウェブメディアが十分な検証を経て発信する信ぴょう性の高い情報と、個人が十分な検証をしないで発信している信ぴょう性の不安定な情報が混然一体となっているという現実を理解しなければなりません。

私たちは、Googleの検索でヒットした情報について「すべてが正しい情報のはずだ」と無意識に受け入れているのではないでしょうか。しかし、私たちが利用するインターネットに溢れている情報は信頼性の高い/低いが曖昧であり、既に価値のない古い情報も眠っており、個人の偏った意見や誤った情報も存在しています。こうした「カオス」を踏まえて、私たちはネット上で発信されている情報を受け入れる前に「本当にそうなのか」という視点を持つことが重要なのではないでしょうか。

ユーザー投稿サイトの健全性を生み出すのは、ユーザーの声

では、こうしたインターネット上の情報が不安定さを抱えている中で、私たちがその情報を資産として活用していくためには、何が必要なのでしょうか。そこで考えたいのが、インターネット上に生み出されるコミュニティによる自浄作用です。

例えば、世界最大の辞典サイトとして多くのユーザーが利用しているウィキペディア。これも、情報の執筆・編集に参加しているのは世界中の個人ユーザーであり、いわば世界最大のUGCということができます。

ただ、ウィキペディアではユーザーが執筆する情報には出典(情報の参照元)を求められ、出典元の記載がない情報や信ぴょう性に疑いがある情報、個人の感情的な意見が掲載された際には、他のユーザーから疑義や議論が提案され、それは閲覧するユーザーにもわかるように表示されます。「これは本当に正しいのか」という声がサイトの中で生み出される仕組みによって、情報の信頼性を高めようとしているのです。

UGCがユーザーの知恵の集合体であるのならば、それを閲覧するユーザーの知恵によってその信頼性がチェックされるべきであり、「これは本当に正しいのか」「この情報は危うくないのか」と思ったときにはすぐに手を挙げて指摘することが、UGCの健全な運営に繋がるのではないでしょうか。UGCを運営する企業には、こうした指摘をしやすくできる環境を整備する必要があると言えるでしょう。

多くのメディアが批判しているクックパッドのハチミツ離乳食レシピが、今回のニュースをきっかけに批判されるまで掲載され続いていたのは、クックパッドのチェック体制が甘かったことが原因の本質ではありません。本当の問題は、こうしたリスクの高いレシピに対して「これはおかしい」「このレシピはあぶない」とユーザーが簡単に指摘できる機能がクックパッドに備わっていなかったことではないでしょうか。

もし、離乳食にハチミツを使ってはいけないということを知っているユーザーがレシピに対して危険性を指摘できれば、そこでコミュニティの自浄作用が働くことになり、こうした訴えに対して運営者が適切な対処をすることができれば、今回のような批判が生まれる前に問題は解決できるはずなのです。こうして情報の信頼性をコミュニティと運営者が協力し合って高めていくことが、UGCが生み出す本当の集合知が目指すところだと言えるのではないでしょうか。

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