2017/02/06【ロタウイルスワクチン】年80万人、乳幼児に下痢…新ワクチン開発へ 阪大・藤田保衛大、世界初「ロタウイルス」人工合成に成功
【ロタウイルスワクチン】年80万人、乳幼児に下痢…新ワクチン開発へ 阪大・藤田保衛大、世界初「ロタウイルス」人工合成に成功
乳幼児に激しい下痢を起こすロタウイルスの人工合成に、大阪大学微生物病研究所の金井祐太特任講師、小林剛准教授と藤田保健衛生大学の研究グループが世界で初めて成功した。これまでロタウイルスの人工合成は不可能とされていたが、それを促進する2種類のタンパク質を発見し、加えることにより実現した。これで、遺伝子を自在に改変して調べることができるようになり、ウイルスが宿主の細胞の中でどのように増殖するかなど治療のカギになる機構の解明をはじめ、毒性の強いウイルスに対して効果的なワクチンの開発に結びつく、と期待される。この成果は、米科学誌「米国科学アカデミー紀要」に掲載された。
■ ウイルス作製を促すタンパク質を利用
ロタウイルスは乳幼児に胃腸炎による下痢や嘔吐(おうと)、発熱の症状を引き起こす。3月-5月に多く、厚生労働省の統計では年間80万人が発症し、そのうち2万6500~7万8000人が入院すると推計されており、死亡例もある。発症後は便にウイルスが排出され、接触感染するが、ウイルスの感染力が強いため、衛生状態がよい先進国でも予防は困難だ。現在、弱毒化したウイルスで免疫力を高める生ワクチンが使われ、重症化の予防に貢献しているが、さらに安価で的確な予防・治療効果があるワクチンの開発が求められている。
研究グループは、ロタウイルスのゲノム(遺伝情報)が、DNAに対応したRNAに書き込まれていることから、この種のウイルスを人工合成できる「リバースジェネティクス(逆遺伝学)」法という技術を使って研究を重ねた。
この方法は、ウイルスのRNAをDNAに変換して、遺伝子の運び屋である大腸菌につないで培養細胞に導入し、その細胞内で再び対応するRNAに戻してウイルスを作製する。ただ、ロタウイルスの場合、RNAは2本鎖で、11個のパーツ(分節)に分かれており、他のRNAウイルスより数が多く、11本すべてを培養細胞に入れて機能させるのは不可能とされていた。
そこで、研究グループは、人工合成を促進する因子として、ロタウイルスの仲間のウイルスが持つ細胞融合性タンパク質(FAST)と、RNAからタンパク質の情報を読み出す効率を上げる酵素(RNAキャッピング酵素)に着目し、それらを利用することで作製できた。いわば、ロタウイルスの仲間が持つ物質が研究の突破口を開くサポートをしたことになる。
さらに、11個のRNAのパーツのうち、目的の遺伝子を改変したうえで人工合成することにより、的確にウイルスを変異することもできる。この方法で、研究グループは宿主の免疫を抑制する機能がある遺伝子を欠失させ、増殖力を弱めることにも成功した。
小林准教授は「ロタウイルスの遺伝子に任意の改変を加えることで人工的に病原性を制御したり、異なる国・地域で流行しているロタウイルス株に対して、より抗原性が適応したワクチン候補株を迅速に開発したりすることが可能と考えられます」と話す。防ぎ切れていないロタウイルスの感染拡大を阻止し、予防や治療を強化するための多様な手段を提供しそうだ。
http://www.sankei.com/west/news/170206/wst1702060055-n1.html