2021/02/05【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナ 「認知症」の感染者 入院遅れ症状悪化相次ぐ
新型コロナウイルスの感染拡大で医療のひっ迫が続く中、特に入院が難しくなっているのが「認知症」の感染者です。都内の医療現場では、入院が遅れて症状が悪化する人が相次いでいることが分かってきました。
入院遅れる認知症感染者
東京 世田谷区にある都立松沢病院は、精神科医療を専門とする医療機関で、去年から新型コロナウイルスの感染者も受け入れています。
コロナの専用病床は18床。
これまでに受け入れた精神疾患や認知症の感染者はおよそ180人に上ります。
認知症などの感染者を専門に受け入れる数少ない病院の1つとあって、都内全域の救急隊や患者の家族から「認知症を理由に受け入れを断られ続けていて、何とか入院させてほしい」という依頼が相次いでいます。
先月23日に入院した認知症の101歳の女性もそうした患者の1人です。
暮らしていた都内のグループホームでクラスターが発生。
地元の保健所が入院先を探しましたが認知症を理由に複数の病院から断られ、発症から9日後にようやくこの病院に入院することができました。
女性は肺炎を発症し、自力で呼吸を続けるのが難しい状態で運び込まれ、今も酸素の投与を受けています。
女性の息子は、「母は命の危機にさらされ、いつになったら入院先が見つかるのかと不安でたまらなかった。高齢で動き回ったりせず、認知症というだけで断られたのはつらかった」と話していました。
満床で受け入れ断念も
一方で、松沢病院自体も、去年の年末からほぼ満床の状態が続き、受け入れに余裕がなくなっています。
一般病床から医療スタッフを集めて、予定した以上のベッド数を確保しましたが、それでも受け入れの要請が相次ぎ、断らざるをえないケースも起きています。
また、病院が直面するもう1つの課題が、治療を終えた患者が、次の行き場がなく病院にとどまり続けるという「出口」の問題です。
利用していた介護施設でクラスターが発生し、コロナに感染した60代の男性は、入院から2週間以上たった今も次の行き先が見つかりません。
症状は落ち着き、退院も可能になりましたが、もともと利用していた施設はクラスターの発生で入所できず、男性の妻も感染しているため自宅に戻ることもできません。
近隣の特別養護老人ホームは満員の状態で空きがなく、ほかの施設を探してもコロナに感染した人を受け入れてくれるところは見つからないといいます。
病院では、回復しても行き先が見つからない患者については、一般の認知症病床に移ってもらい、ひっ迫を回避していますが、その対応にも限界があるといいます。
都立松沢病院社会復帰支援室の菊地ひろみ相談主任技術員は「入院中に寝たきりの生活が続き、身体機能や認知機能が低下して、家に帰れなくなる人も多い。また介護施設でも感染した人は受け入れてもらいにくい現状があり、行き先が見つからないケースが出てきている」と話しています。
入院断る理由と体制の課題
認知症の感染者はなぜ入院を断られるのか。
一般の病院では、認知症の感染者を受け入れる余裕がないという事情も指摘されています。
都立松沢病院の阪下健太郎内科医長によりますと、認知症の人は、自分で感染対策を徹底するのが難しく、動き回ってしまうおそれがあるほか、酸素投与や点滴の必要性を理解できず、管を抜いてしまうケースも起きています。
一方で、重症の人は認知症があっても動き回ることはないとしています。
しかし、一般病院の中には、個々の患者の状況を丁寧に把握する余裕がなく、「認知症」というだけで受け入れに難色を示すところもあるということです。
もともとぜい弱な認知症の医療体制
さらに阪下医師は、認知症の医療体制がもともとぜい弱で、新型コロナによって事態がより深刻化したと指摘しています。
精神科の専門病院は、内科や外科などの体制が十分整っていないところもあり、逆に一般の病院では、精神科の専門医との連携が十分取れていないところもあるといいます。
このため、認知症のコロナの患者を専門的に受け入れている病院は、都内でも数か所しかないといいます。
今や認知症の人は全国で600万人を超えると推計されていて、今後も増加し続けることが予想されています。
阪下医師は「認知症や精神疾患のある人が医療を受けづらく、不平等な状態になっていると感じる」と指摘し、そもそもの医療や介護の体制を充実させるべきだと訴えています。
地域の介護施設が退院患者受け入れも
行き場のない認知症のコロナの患者。
どうすれば受け入れ体制を、拡大できるのか。
都内では、退院できずにいる認知症の患者を、地域の介護施設が受け入れていく取り組みが始まっています。
始めたのは、東京都の「介護老人保健施設」で作る協会です。
「介護老人保健施設」は、高齢者を介護するだけでなくリハビリなども行う施設で、介護職のほかに常勤の医師や看護師がいます。
協会では、新型コロナの治療が終わり退院基準を満たした人を、介護老人保健施設で積極的に受け入れる方針を決め、今月から会員の施設に対応を呼びかけています。
このうち東京 文京区の施設では、去年末から、コロナの治療が終わった数人の高齢者を受け入れました。
感染を広げるおそれはないとされていますが、施設では念のため、最初の10日間は個室に入ってもらい、対応するスタッフは、防護服を着て介護に当たります。
認知症の人が万が一、個室から出ててもよいようにフロアも分けています。
入所から10日たてば、一般の利用者と一緒に医師や看護師などの立ち会いのもとでリハビリを受けます。
入院中に衰えた身体機能や認知機能の回復に努めることで、自宅やもともといた施設に帰りやすくします。
医療法人社団龍岡会の大森順方理事長は「感染のリスクが低いとはいえ対応する職員の心理的負担は大きいので、念には念をいれて感染対策に当たっている。コストはとてもかかるが、社会的な使命として受け入れていきたい」と話していました。
東京都老人保健施設協会では今月中に受け入れ可能な施設をホームページで公開することにしています。
受け入れ施設はまだ数か所に限られていますが、今後も協力を呼びかけ、将来的には数十か所まで増やしていきたいとしています。
東京都医師会の副会長で、東京都老人保健施設協会の平川博之会長は、「医療体制のひっ迫を少しでも改善するために医療と介護の中間施設としての役割を果たしたい。一方で、対応に当たる職員の心理的負担も大きく、協力してくれる施設を増やしていくためにも、行政には財政的な支援をお願いしたい」と話しています。