2020/08/09【新型コロナウイルス:COVID-19】「参加者半数感染」夏のキャンプ感染対策の穴 陰性証明、消毒や距離の確保だけでは足りない /アメリカ
アメリカでは新学期が近づき、大学を含む学校の運営責任者は生徒・学生の安全をどう確保するのかという難しい問題に直面している。そうした中、ジョージア州の合宿キャンプで発生した新型コロナウイルスの集団感染は、安全確保にさらなる懸念を投げかけている。
このキャンプでは複数の感染防止策が講じられていたものの、マスクの着用までは義務づけられていなかった。アメリカ疾病対策センター(CDC)の7月31日の報告によると、ウイルスは約600人のキャンプ参加者と指導員の一団に広がった。
なんと半分近くが感染
スタッフと指導員がキャンプ場に集まったのは6月下旬。このオリエンテーションから1週間とたたずして10代の指導員1人が悪寒を訴え、帰宅した。
CDCはキャンプ場の名前を明かしていないが、参加者は翌日から順次帰宅を開始。キャンプ場は数日後に閉鎖された。その頃までには、CDCが検査結果を確認できた344人のキャンプ参加者とスタッフの76%がウイルスに感染していた。キャンプ場にいた人たちの半数近くが感染した計算だ。
ジョンズ・ホプキンス公衆衛生大学院の感染症専門家、ケイトリン・リバーズ助教授は、学校や保育現場の集団感染に関する情報はこれまでにほとんどなく、今回の報告は注目に値する、と話す。
「参加者のほとんどが子どもであっても、人が多く集まる場所では大規模な集団感染が起こりうることが今回の研究で裏付けられた」(リバーズ氏)というわけだ。
リバーズ氏はこうも指摘する。「キャンプに参加していた子どもたちは、わずか数日一緒に過ごしただけでここまで大量に感染した。この事実は、対面学習を再開する学校において、いかに感染防止策が重要であるかを明確に示している」。
リバーズ氏によれば、感染を抑えるには物理的な距離を保ち、全員がマスクを着用し、衛生対策と換気を行うことが欠かせない。
子どもが感染拡大に関与しているとの見方には異論もある。しかしCDCは今回の件で、子どもはどのような年齢であっても感染しうるばかりか、感染拡大にも大きく関わっていることを示す証拠がさらに積み上がったとしている。
ミシガン大学で健康管理最高責任者を務めるプリーティ・マラニ教授は、CDCの報告は「教訓にあふれている」と話す。「これだけ大きな集団となると(感染を防ぐのは)難しい。若者は若者同士で群れたがるものだし、交流したがっている。感染者が1人いるだけで大勢の人に感染が広がってしまうということだ」。
滞在期間が長い層で高い感染率
今回のキャンプでは、検査結果が得られた344人の参加者とスタッフのうち260人が陽性だった。すなわち全参加者の感染率は少なくとも43%に達していたわけだが、CDCによれば、感染率はこれを上回っていた可能性が大きい。
6〜10歳の子どもでは半数以上、11〜17歳では44%、18〜21歳では3分の1が感染していた。22歳以上のスタッフは7人しかいなかったが、うち2人が陽性となった。
感染率はキャンプ場での滞在期間が長い層で最も高くなった。参加者よりも先に現地入りしていたスタッフは半数以上が感染している。
キャンプはジョージア州知事令による感染防止措置には従っていたものの、CDCによる連邦レベルの推奨事項は完全には守られていなかった。
参加者とスタッフには、キャンプ到着前12日以内に実施されたウイルス検査の結果が陰性であることを示す証明書の提示が義務づけられていた。共用エリアの清掃と消毒は強化され、キャビンの外では物理的な距離を確保することが求められた。共用スペースの利用も混雑を避けるため時間をずらして行われていた。
しかし、スタッフには布マスクの着用が義務づけられる一方で、参加者は着用を義務づけられず、建物の換気のために窓やドアが開けられることもなかった。参加者はキャビンに宿泊し、1棟につき平均して15人が滞在した。
屋外のほか、屋内でも行われたキャンプ活動には「元気に歌ったり声援を送ったりする」ものが含まれており、これがウイルスの拡散を加速させた可能性があると報告書は述べている。
常時マスクをつけ、距離を保つのは困難
マラニ氏は、大規模イベントの前に陰性証明の提出を求めたとしても感染防止効果には限界のあることが今回のケースではっきりした、と指摘する。
「検査で陰性になったからといってつねに安全であるとは限らない。個々人が感染防止策をしっかりと守る必要があるということだ。ところが、幼稚園から高校、大学のキャンパスといった若い人たちが集まる場所では感染防止策を徹底するのが難しい」(マラニ氏)
マスクの常時着用が現実的でないことも問題を難しくしている、と同氏は話す。「スタッフがキャンプ参加者の近くでマスクをしていたとしても、夜間に宿舎で過ごしているときにマスクをしていなかった可能性は十分に考えられる。なぜなら、現実とはそういうものだから」とマラニ氏。「つねに他人と距離をとってマスクをし続けるというのは自然なことではなく、大変な努力が必要となる」。
イスラエルのエルサレムにある高校では5月下旬に対面授業が再開されたが、その10日後に集団感染が発生した。最近の調査によると、最終的には生徒の13%、職員の16%がウイルスに感染していた。
生徒にはマスクの着用、ソーシャルディスタンス(社会的な距離)の確保が求められていたが、1つの教室に最大38人もの生徒が入る密な環境では距離の確保は不可能だったと調査は結論づけている。エアコンの使用もウイルスの拡散に拍車をかけた可能性があるという。
https://toyokeizai.net/articles/-/367782