抗菌薬で治療できるようになり、激減した「過去の病気」。そう思われがちな梅毒の患者が急増している。ここ10年ほど増加傾向をたどり、大都市だけでなく地方にも広がってきた。
県内の昨年の届け出は66人に上り、前年より25人増えた。60人を超えたのは半世紀ぶりだという。感染の拡大をどう防ぐか。あらためて注意を向ける必要がある。
全国では2017年に5千人を上回り、18年は7千人に達した。特に目立つのが、20代を中心にした女性患者の増加だ。18年は2400人余に上り、5年でおよそ10倍に増えている。
急増した理由ははっきりしていない。性風俗業に従事していない場合が多く、出会い系サイトなどを通じた不特定多数との性的接触が一因とも指摘されている。
「梅毒トレポネーマ」という細菌による感染症だ。主に性行為で感染する。口の粘膜や皮膚の傷からも体内に入るため、キスでもうつる場合がある。コンドームは感染防止に有効だが、万全ではないことを知っておきたい。
感染から数週間で陰部や口にしこりができ、やがて全身に菌が回って手や足に発疹が出る。治療せず放置すると、数年から数十年かけて脳や心臓、神経を侵し、重い合併症を引き起こす。
しこりや発疹は自然に消えることが多い。痛みもなく、感染に気づかずに病気が進んでしまう場合がある。治療していても、症状がなくなると「治った」と思い込んで服薬をやめてしまう人が少なくないという。それが感染拡大につながってもいるようだ。
もう一つ見過ごせないのは、女性患者の増加に伴って、妊娠中に胎児に感染する「先天梅毒」が増えていることだ。死産に至る場合が多いほか、肝臓の肥大や骨の異常といった悪影響を子どもの体に及ぼす。学齢期になって後遺症が現れる場合もある。
母親の感染を早期に見つけ、抗菌薬による適切な治療をすれば、胎児への影響は防げる。心配があったら、ためらわずに検査を受けたい。知らずに感染させないために、男性が受けることも大切だ。県内の保健所は無料・匿名で性感染症の検査を行っている。
出会い系サイトなどを通じて不特定多数と関係を持つような若者の性のあり方は、寂しさや自己肯定感の低さが背景にあると指摘されている。性に関心を抱く年代の子どもたちへの、感染症予防の知識を伝えるだけにとどまらない性教育の取り組みも重要になる。
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