【百日咳】「百日ぜき」10代以上の患者増…早期診断法を実用化
1か月近く激しいせきが続く百日ぜき。予防ワクチンで乳幼児の患者は減ったが、免疫効果の弱まる10代から上の世代で増えており、厚生労働省は来年から、全医療機関に患者の届け出を義務づける予定だ。早期診断できる新しい検査法が昨年、保険適用され、流行の防止が期待されている。
百日ぜきは、百日ぜき菌が原因で、症状は鼻水、くしゃみ、せき、微熱など。発症から1~2週間でせきが徐々にひどくなり、「コンコンコンコン」と連続する短いせきと、息を吸い込むときの「ヒューッ」と笛のような音が特徴だ。
高い伝染率、予防ワクチンにも限界が…
感染症の中でも伝染率は高い。1人の患者が感染期間中に病気をうつす平均患者数を見ると、百日ぜきは12~21人。インフルエンザ(1~3人)、ノロウイルス(3~4人)、風疹(6~9人)より高く、麻疹と同レベルだ。
予防ワクチンは、4種混合ワクチンとして生後3か月から接種できる。その免疫効果は一生続くと思われがちだが、中学生までに約半数で効果がなくなるという研究報告もあり、時間がたつと油断できない。
初めての感染なら、連続する短いせきなど特徴的な症状からわかりやすいが、2回目の感染ではその特徴がなく発熱もない。このため、感染の自覚がない人が周囲にうつす恐れもある。
感染しても、マクロライド系抗生物質で治せる。ただし乳児では、手足のまひなど後遺症や死亡の恐れもある。米国の統計によると、生後6か月未満で発症すると0・6%が死亡する。
川崎医科大学小児科教授の尾内一信さんは「成人の場合は長引くせきで済むが、ワクチン接種前の乳幼児がかかると重症化の危険がある。保菌者として無意識に病原菌を拡散させないよう注意が必要だ」と話す。
従来は医師の主観で判定していたが…
感染拡大を食い止めると期待されているのが、最近、登場した新しい検査法だ。これまでの診断は主に、症状から医師の主観で判定していた。それに対し、新しい検査法は、症状がはっきりする前に客観的データから診断できる。「正確な患者数をつかむのに役立ち、潜在的な流行を防げる」(尾内さん)という。
新しい検査法は、感染後に体の中で増える百日ぜき菌の遺伝子(DNA)や、菌に対抗して体の中に作られる抗体の量を調べるもの。それぞれ発症後、増加のピークを迎える時期が違うので、検査を組み合わせて患者の状態を推測できる。
発症初期に有効なLAMP法は、鼻の奥の粘膜に菌のDNAがあるか調べる。このほか、菌の増殖時期より遅れて増加する抗体量を調べる血液検査がある。最近、菌自体に反応する抗体IgMとIgAを調べるキットが登場。抗体量のピークは、IgMが発症から約2週間後、IgAが約3週間後となる。
抗体を使う検査法は、菌の毒素に反応するIgGを使う方法が一部で行われてきたが、増加ピークが発症後3~4週間なので、初期診断には使えなかった。
新しい検査キットの実用化に伴い、日本小児感染症学会、日本小児呼吸器学会は、百日ぜきの診断基準や検査の手順について診療指針の見直しを行った。