【研究報告】腸内フローラ、C型肝炎悪化で破綻することが明らかに
ヒトの腸内には100兆個超の細菌が棲みつき、複雑な生態系「腸内フローラ」を形成している。それは我々の健康維持や病気の予防などに関与していて、その乱れは健康に悪影響を及ぼすことが示されている。
腸内で腸管や免疫系に重要な働きをする常在菌が減少し、腸内フローラを構成する細菌の種類が減少(多様性の低下)し、ふだん増加しない菌種が異常増殖することは、腸内フローラの破綻”Dysbiosis”を意味する。腸は血液の循環経路から肝臓とつながりが深く、非代償性肝硬変(重篤な肝硬変で様々な合併症があらわれる)患者では高アンモニア血症の予防・治療のために、抗生剤を用いて腸内フローラの改善が試みられてきた。
近年、C型肝炎の治療は劇的に進歩し、注射薬(インターフェロン)を使わず、飲み薬(直接作用型抗ウイルス薬)の組み合わせによりウィルスをほぼ100%排除できるようになった。だが肝硬変に至った患者は、ウイルスを駆除しても、傷つけられた肝臓を完全に修復することが困難だという。
名古屋市立大学、九州大学、奈良県立医科大学、愛知医科大学の共同研究グループは、AMEDの支援のもと、C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染が腸内フローラを変化させ、病状が悪化するにつれて腸内フローラの破綻が進むことを世界で初めて証明した。
健常人23名、病期の異なるC型肝炎患者166名(肝機能正常HCVキャリア[PNALT]18名、慢性肝炎84名、肝硬変40名、肝がん24名)の協力を得て、彼彼女の便検体・臨床情報を収集し、次世代シーケンサーを用いて腸内フローラの特徴を解析した。結果、①PNALTでもすでに腸内フローラに変化が現われていて、一時的にバクテロイデス属や腸内細菌科の細菌が増加していること、②PNALT、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと病期が進むにつれて腸内フローラを構成する菌種が減少(単純化)し、レンサ球菌属のストレプトコッカス・サリバリウスなどが腸管内に増加して、腸内フローラの破綻が見られることを明らかにした。
C型肝炎の進行に伴う、ストレプトコッカス・サリバリウスなどの異常増殖は、水素イオン指数(pH)の測定によって、これらの菌が腸管で尿素を分解してアンモニアを生産し、便のpHを高くしていると考えられた。こうしたアンモニア生産菌を増殖させないことが、肝硬変などで見られる高アンモニア血症の予防や治療につながる可能性があるという。
これらの結果は、C型肝炎悪化のメカニズムや病態の解明、新薬開発への道を開くだろう。そして、より早期からの腸内フローラへの介入――プロバイオティクス(ビフィズス菌のような有益微生物)の摂取や投与、適切な抗生剤の投与、口腔ケアなどが、C型肝炎の進行・肝がんの発生を抑えるだろう、可能性も示している。