感染症に対する防御力を国際的な水準まで高める重要な一歩である。
感染症研究拠点「BSL(バイオセーフティーレベル)4」施設の建設が長崎大で始まった。
エボラ出血熱やラッサ熱のウイルスなど、致死率が高く、有効な治療法がない病原体を扱う。2022年度にも稼働する。国内でもようやく、こうした感染症のワクチンや治療薬の研究ができるようになる意義は大きい。
海外では、20か国以上に約60か所のBSL4施設がある。複数の施設を有する国もある。
国内にも、国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)があるが、極めてリスクの高い病原体を扱う研究よりも、重大な感染症が発生した際の検査が主眼だ。設備は旧式で、規模も小さい。
高度な実験を試みるためには、海外のBSL4施設を間借りするしかない。だが、01年の米同時テロ以降は、どの国もテロ対策を強化し、外国からの研究者の受け入れを制限している。
外国人観光客の増加など、国際交流が活発化し、新たな感染症が国内に侵入するリスクは増大している。病原体を拡散させる生物テロへの備えも欠かせない。
BSL4施設を要する研究が停滞し、思うように専門家を育成できない状況は改善すべきだ。
現状を立て直すため、政府の全面支援で実現したのが、長崎大の施設だ。熱帯病研究などの実績が豊富な長崎大も、研究拡充のため、建設に積極的だった。
新施設には高度な安全性が求められるだけに、実験室を二重に覆い、外部と厳重に遮断する。研究者は防護服を着用する。国際水準の実験設備も備える。部外者に対するセキュリティーにも、十分に留意することが大切である。
長崎大は、75億円の建設費に加え、維持費についても、政府の支援を求めている。有効に機能させるには、必要な措置だろう。
世界保健機関(WHO)は昨年2月、エボラ出血熱など、高度な対応が迫られる感染症をリストアップし、各国に研究や監視の強化を促した。未知の感染症「疫病X」もリストに挙げた。
14~16年に西アフリカで流行したエボラ出血熱は、欧米に拡大した。アフリカの猿から発見されたジカ熱は、世界を脅かす。疫病Xは、思わぬ感染症が広範に猛威を振るう事態への警鐘である。
新施設に対しては不安の声もある。感染症に備える重要性を丁寧に説明し、理解を広げたい。