【研究報告】順天堂大ら、アフリカでマラリア第一治療薬の耐性原虫を発見
順天堂大学は、マラリア治療の第一選択薬であるアルテミシニンに耐性を持つマラリア原虫がアフリカで確認されたと発表した。この耐性マラリア原虫は、まだ耐性原虫がいないとされるアフリカ地域で独自に出現したことがわかったということだ。
同研究は、順天堂大学医学部熱帯医学・寄生虫病学講座の池田美恵博士研究員、橘真一郎助教、美田敏宏教授らの研究グループと、Gulu大学(ウガンダ共和国)、 大阪大学、 愛媛大学、 東京大学、 産業技術総合研究所との共同研究によるもので、同研究成果は、3月20日に米国科学雑誌「Emerging Infectious Diseases」電子版にて発表された。
マラリアは、ハマダラカ(蚊)によって媒介される世界三大感染症のひとつで、現在ほぼすべての流行国でアルテミシニンがマラリアの第一選択薬となっている。しかし、すでに東南アジアの一部でアルテミシニン耐性原虫の出現が報告されている。そこでWHOはアルテミシニン耐性封じ込めプランを策定し、薬剤耐性の拡散阻止に向けて努力が続けられてきた。そして、現在に至るまでマラリア患者の9割を抱えるアフリカではアルテミシニン耐性原虫は出現していないとされてきた。
現在、マラリア原虫のアルテミシニン耐性の有無の判定はマラリア患者における治療効果を臨床的に評価することによって行われている。しかし同研究グループは、高度流行地では患者の持つ因子が耐性の診断に強く干渉するため、現行の方法では薬剤耐性の出現を正確に検出できないと考えてきた。そこで、マラリア患者から得られた感染赤血球を高濃度のアルテミシニンとともに6時間共培養後、原虫抗原量を測定するという実験室向けであった方法を、マラリア流行現場で実施できるように改良し、2014年から3年間ウガンダ共和国で定期的な調査を実施した。
その結果、194人のマラリア患者において2%にあたる4人の患者がアルテミシニン耐性原虫に感染していることが発見された。うち1例は東南アジアに分布している耐性原虫より高い耐性レベルを示していたという。さらに、耐性原虫の由来を明らかにするため、得られた原虫の全DNA配列を決定し解析を行った結果、今回発見された耐性原虫はいずれもアフリカで独自に出現、進化していることをつきとめたという。なお、これらの耐性原虫には東南アジアのアルテミシニン耐性の原因とされている遺伝子変異が検出されず、耐性メカニズムが異なる可能性が示唆されている。
今回使用した耐性診断法よりさらに簡便な方法の開発のため、同研究グループは、アフリカのアルテミシニン耐性患者から得られた血液からマラリア原虫株を樹立しており、今後は東南アジアとは異なる耐性メカニズムの解明、関与する遺伝子およびその変異を同定していくという。アフリカに分布するアルテミシニン耐性の遺伝子マーカーを同定することによって、薬剤耐性マラリアの出現と拡散を広域に監視することが容易になり、薬剤耐性の拡大の危機回避と世界におけるマラリア対策に大きな貢献ができると考えているということだ。