地震や豪雨などの被災地で、「破傷風」が話題に上ることが増えた。土の中の菌が傷口から入って発症するため、土砂があり、けがをしやすい環境で感染リスクが高まるからだ。被災地に出向くボランティア、発展途上国などへ渡航する人は、ワクチンの接種などで予防することが大事だ。
土中の菌に感染
破傷風は、土壌に存在する破傷風菌に感染して起こる。潜伏期間は3日から3週間ほど。口が開けにくくなる「開口障害」のほか、首筋が張る、寝汗、歯ぎしりなどの症状が出る。全身のけいれんを起こしたり、呼吸困難になったりして、症状が重いと命を落とすこともある。
破傷風が疑われる場合、すぐに傷口の洗浄や消毒を行い、抗菌薬や、菌の毒素を中和する「免疫グロブリン」をできるだけ早く投与する。
予防では、破傷風トキソイドと呼ばれるワクチンの接種が有効だ。日本では1950年に約1900人の患者がいたが、68年から定期予防接種が始まり、患者数は激減した。しかし、67年より前に生まれた人は免疫を持たない人が多い。
国立感染症研究所の調べによると、2000年代も年間の患者数が100人を超えることが多く、13年以降は毎年120人以上が報告されている。
丈夫な手袋つけて
破傷風は、災害と深く関係している。地震や豪雨などの被災地では、汚泥やがれきの撤去など、土に触れる機会が多い。実際、11年の東日本大震災では、発生後の約1年間で10人の発症が報告された。呼吸困難で気管を切開し、人工呼吸器をつけた例もあった。
今年7月の西日本豪雨でも、広島県で少なくとも3人の破傷風患者が報告された。60~80歳代の男女で、いずれも被災者だという。
岡山県では被災者の破傷風患者は報告されていないが、倉敷市の倉敷中央病院には、壊れた家屋の片付け中にくぎを踏み抜くなど、負傷した被災者やボランティアが数多く来院。ワクチンを接種した人は、豪雨発生前と後の1か月間で比べると3倍に増えたという。
被災地における破傷風予防のポイントは三つ。〈1〉汚泥やがれきの撤去は、丈夫な手袋や底の厚い靴で手足を保護し、素肌を露出しないで行う〈2〉けがをしたら清潔な水でよく洗い、土や泥に触れないようにする〈3〉破傷風を疑う症状があれば、医療機関をすぐに受診する――ことだ。
日本環境感染学会理事長で東北大教授の賀来満夫さんは「ボランティアで被災地へ行く人で、破傷風ワクチンの接種歴が不明な人、接種から10年以上たっている人は、ワクチン接種を検討してほしい」と話す。
海外へ旅行や出張の予定がある人も対策が必要だ。海外出張前に訪れる人が多く、破傷風の予防接種ができる西新橋クリニック(東京都港区)理事長の大越裕文さんは、「発展途上国は医療体制が整っていないことがある。いざという時に治療が遅れる可能性があり、事前の予防は欠かせない」と指摘する。