【耐性菌】耐性菌、健康なら過度に恐れなくていい
このコラムでこれまで紹介してきた耐性菌を復習すると、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、ESBL産生菌、AmpC型βラクタマーゼ産生菌です。
MRSAは黄色ブドウ球菌、VREは腸球菌、ESBLとAmpC産生菌は大腸菌やクレブシエラ菌という菌がもともとの菌で、それらが抗菌薬を壊すβラクタマーゼを産生することで薬剤耐性菌になったというわけです。
これらのもともとの菌はすべて、私たちの体に普段から着いているものや、腸内にすみ着いている常在菌(体にいてもいい菌)です。ですから、健康で、正常な免疫や常在菌を持っている人にとっては怖い菌ではありません。「抗菌薬が効かない」ことと、「実際に悪さをしやすい」ことは、全く別なのです。
これらの菌が実際に悪さをして感染症を発症させるのは、体が弱っている人、手術後の人、免疫が下がる薬を飲んでいる人、超高齢者、新生児といった、いわゆる「易感染性宿主(いかんせんせいしゅくしゅ)」の場合がほとんどです。
そして、これらの耐性菌が暴れやすくなる条件は、「易感染性宿主の人が抗菌薬を投与されている時」です。なぜなら、耐性菌以外の常在菌が抗菌薬によって抑え込まれているからです。耐性菌は「弱っている人が病気になって、抗菌薬が投与される」機会をねらっているのです。
昔といっても、ほんの75年前までは、私たちは抗菌薬など持っていませんでした。
ですから、ちょっとした感染症にかかってもウンウンうなって回復を待つか、あるいは感染症に負けて死んでしまうか、どちらかしかありませんでした。
しかし、運よく回復した人は、少なくともその原因菌に対する免疫防御反応を強くしていったのです。当たり前ですが、抗菌薬のない時代には、薬剤耐性菌などは生まれる余地もありませんでした。
そう考えると、現代の私たちは感染症に対して過保護な状態に置かれ、軽症例に対しても抗菌薬が投与され過ぎる傾向にあるのかもしれません。いずれ、細菌感染症だけでなく、インフルエンザなどのウイルス感染症についても同じことが起こるのでしょう。
抗インフルエンザ薬が日本に普及したのはわずか16年前、2001年のことです。現在の日本ではインフルエンザの症状があれば、確定診断がなくても、あるいは軽症であっても、抗インフルエンザ薬が簡単に投与される時代となりました。
それによって救われた命がたくさんあることは事実ですが、あまりに感染症に対して過保護になると、いつの日かどんな薬も効かない細菌やウイルスにしっぺ返しをされる日が来るような気がします。
大事なことは、感染症にかからないための予防法をみんなが覚えること、そして体調不良を押してまで無理に働いたり、学校や塾へ行ったりする必要のない社会にすることだと私は考えています。