2018/11/13【食中毒】なぜ見分けられなかったのか?老舗旅館が「出汁」と「洗浄剤」を間違え宿泊客に提供 /長野県
洗浄剤が混入した「お茶漬け」を宿泊客に提供
毎年、多くの観光客で賑わう長野県の温泉郷・蓼科にある、老舗温泉旅館「蓼科親湯温泉」で夕食を食べた40代から70代の男女が3人、のどの痛みや舌のしびれなどを訴え、11月9日に緊急搬送された。
その原因は出汁と間違えて、洗浄剤が混入したお茶漬けを宿泊客に提供したことだという。
なぜ、出汁と洗浄剤を間違えてしまったのか、再現を元にその背景に迫る。出汁と洗浄剤の鍋は同じ色でサイズも全く同じだった
90年以上の歴史を持つ「蓼科親湯温泉」は、昭和の文豪・太宰治に愛されたとHPでうたわれ、信州の山の幸を使った豪華料理が名物の有名老舗旅館。
だが、11月12日に訪ねてみると玄関には「臨時休館」の張り紙がされていた。
休業中の旅館で代表と支配人に出汁と洗浄剤を間違えた理由を尋ねると、渡邊裕之支配人は「通常、スタッフが調理場より出汁を持ってきて、お客様の側で出汁を掛けてお茶漬けを提供するシステムでございますが、調理場から鍋を持ってくる際に“似たような鍋で洗浄中の鍋”がありました。それを“出汁と勘違い”して社員が提供してしまった」と説明した。
出汁が入った鍋と洗浄剤が入った鍋の位置関係は、直線距離にして約2メートルあり、近い位置に2つの鍋はあったという。
しかも、鍋の色は2つともシルバーで、形やサイズも全く同じだった。
その結果、調理場経験の浅い社員が洗浄剤入りの鍋を持っていき、液体をお茶漬けにかけて宿泊客に提供してしまったという。
渡邊支配人は「最大の原因は、間違っている可能性のあるものを調理中の時間帯に表記もせず、置いていたことが一番の原因です」と話した。
出汁と洗浄剤を見分けられるのか?再現で検証
では、他の従業員が「液体の色や匂いの違い」を事前に察知することはできなかったのか。
旅館側から聞いたレシピや情報を基に、出汁と洗浄剤が入った鍋を再現して色の違いを比較した。
出汁の色は、カツオと昆布ベースということで黄金色だが、洗浄剤は白く濁っている。
また、匂いも出汁はカツオの風味が効いている一方で、洗浄剤はほとんど匂いはなかった。
検証では、見た目も匂いも違った出汁と洗浄剤。なぜ、誰も気づくことができなかったのか?
渡邊支配人は「私どもの慢心ですが、間違った鍋を持っていかないだろうということで目視確認ができなかった」と述べ、柳澤幸輝代表は「鍋は一個しかないと調理場は考えていましたのでヒューマンエラーになります。誠に申し訳ございませんでした」と謝罪した。
食中毒を訴えて搬送された3人は快方に向かっているというが、旅館を管轄する諏訪保健所は、11日と12日の2日間、調理部門の営業停止を決める処分を発表。
旅館側も再発防止のため、夕食時と鍋の洗浄時間をずらすなどの対策を取るとしている。
洗剤などを詰め替える際は要注意!
一方で、こういった洗浄剤混入事故に対して、日本食品衛生協会の飯田信行氏は「飲食店などで洗剤などを間違えて、客に提供する例は毎年、全国で起こっています。詰め替え用の洗剤や消毒液を例えば焼酎の容器に入れてしまい、お客さんに提供してしまう例もある」と警鐘を鳴らした。
東京都福祉保健局によると、数年前に焼酎の空き瓶やみりんの空き容器に入れていた洗剤を客に提供してしまったケースが複数あるという。
さらに街の人にも聞くと「詰め替え用のボトルがなくて、洗剤をペットボトルのラベルなしに入れることがある」や「1回、子供が間違えてしまったので、それでやめました」などといった声があがった。
日本食品衛生協会の飯田信行氏は「大前提として、詰め替え用の洗剤を容器に移す時は、必ず食品以外の容器を使ってください。詰め替えたら、必ず何が入っているかを容器にマジックで書くなど、分かるようにしてください。非常に危険な事になるので、注意してください」と話した。