2018/01/12【HIV】南スーダン:命を救うエイズ薬を、誰もが手に入れられるように /南スーダン
【HIV】南スーダン:命を救うエイズ薬を、誰もが手に入れられるように /南スーダン
南スーダンの農村に住む人が、HIV検査と治療を受けることはとても難しい。隣の村へ出かけることさえ大変だったのに、紛争のせいでもっと孤立した地域へ避難しなければならなかった。だが、希望もある。南西部のヤンビオ郡では試験的なプロジェクトが始まった。検査と同じ日にすぐ治療を始める移動診療の取り組みで、患者と家族の生活は良くなっている。
「死を待つだけ」だった地域へ
「昔は、この地域で受けられる治療はほとんどありませんでした。病気になった人は苦しみ、死ぬだけでした」
ヤンビオ郡がある南スーダンの西エクアトリア州で、地域部族のリーダーであるアルカンゲロ・ルーベンさんは話す。「薬をもらえる町にたどり着くまで、数日かかっていました。戦闘が始まると、大勢の人が治療など受けられないような場所に逃げ、事態はますますひどくなりました」
MSFは長い間ヤンビオの保健当局と協力関係を築き、抗レトロウイルス薬(ARV)治療をこの地域の人びとに届ける最善の方法を探ってきた。現地のHIV感染率は3.4%で、南スーダンの全国平均をはるかに上回っている。
南スーダンでMSFの活動責任者を務めるハウメ・ラドは「治安が安定した状況で暮らす人や医療施設の近くに住む人だけがHIV治療を受けられ、命が助かるというのでは不十分です。MSFはヤンビオで、治安や距離の問題があってもHIV患者が診療を受けられる体制を整えられることを示したい」と話す。
農村部でも検査と治療を
この難題に取り組むため、MSFはHIVの「テスト&トリート(検査と治療)」プロジェクトを試験的に開始した。保健省の支援を得て、2年半にわたってヤンビオ郡で運営している。移動診療チーム二つが農村部の診療所6ヵ所を運営し、検査とARV治療をしている。
ヤンビオでMSFのプロジェクト・コーディネーターを勤めるファルハン・アダンは、「患者を遠く離れた診療所や薬局に来させるのではなく、私たちが地域へ出向き、決まった時間に診療を受けられる形をとっています」と語る。「患者は検査を受けたその日に結果がわかり、治療もすぐに始められます。HIVがどのように生活に影響するのか説明するカウンセラーもいます。もっと人里離れた地域には、保健担当者が薬を届けています」
MSFの地域保健担当チームのリーダー、アイザック・ジナロは、遠く離れた地域へ薬を届けている。「プロジェクトが始まった当初は大変でした。1軒1軒、家を訪ね、森の奥に住んでいる場合は何時間もかけて探さなければなりません。今では人びとも、私たちがいつ村に来るか、どうやって診療を受ければよいかわかっています」
地域に根ざしたモデルで患者の助けに
プロジェクトの効果も出てきている。最新の実績では、2015年6月から2017年11月の始まりにかけて、1万4804人がHIVの検査を受けた。そのうち505人は陽性で、401人が治療を始めている。地域に根ざした検査と治療のモデルによって、患者は必要な治療薬を確実に受け取ることができる。遠く離れた村に住んでいても、3ヵ月分の薬をもらえるのだ。
10年前にHIV陽性と診断されたナマ・マルタンさんはこのプロジェクトを利用する患者だ。「私は15人の子どもを育てています。お金も時間もありません。以前は往復2日かけてヤンビオに(治療に)行き、宿泊費も必要でした。その間、家には子どもたちだけ。今では、歩いていける村に薬が届くようになりました」
プロジェクトは2018年6月に終了予定で、MSFは現地で提携しているカトリック系医療使節理事会へ引き継ぎの準備を進めている。MSFの活動責任者ハウメ・ラドは希望を持っている。
「次の一歩は、保健省の助けを借りて他の医療機関にこのプロジェクトの学びを伝えていくことです。情勢が不安定な多くの地域で、このモデルがたくさんの紛争避難民の助けとなるでしょう」
www.msf.or.jp/news/detail/headline_3649.html