厚生労働省は31日、輸血用血液製剤で80代の女性がE型肝炎ウイルス(HEV)に感染し、劇症肝炎で昨年死亡していたと明らかにした。血液製剤の供給元の献血者は、シカの生肉を食べたことで感染したとみられるが、発症していなかった。輸血でHEVに感染し死亡した報告は、海外も含め初めてという。
厚労省によると、女性は多発性骨髄腫を患い、抗がん剤治療を5カ月間受けた後、昨年7月に輸血を受けた。その後、肝機能が悪化し、11月に劇症肝炎で死亡した。
献血事業を担う日本赤十字社によると、2002年以降、輸血でHEVに感染し発症したのは23件。軽症だったケースが多い。日赤はこれまで血液のHEV混入の検査をE型肝炎患者が多い北海道のみで実施していたが、今後全国に広げて再発防止を図る。
しかし、導入には少なくとも1〜2年かかるため、当面は感染の恐れがある献血者には辞退を呼び掛ける。医療機関に対しては、輸血用血液製剤に感染症のリスクがあることを改めて周知する。ただ、血液中にHEVが残っている期間は長くはないという。
輸血用血液製剤からのウイルス感染による死亡は、02〜05年に計3件、B型肝炎ウイルスが原因で起きた例などがある。
今回のケースについて、肝臓専門医の溝上雅史・国立国際医療研究センターゲノム医科学プロジェクト長は「患者は高齢で、抗がん剤の投与で肝臓機能が低下していたところに、E型肝炎にかかった。死亡は複合的な要因によるものではないか」と指摘する。【熊谷豪】
◇ことば「E型肝炎」
E型肝炎ウイルスを体内に持つイノシシやシカなどのジビエ(野生鳥獣の食肉)やブタなどを、加熱不十分な状態で食べることで感染する。感染は一過性で、ウイルスが体内に定着することはない。症状は発熱や腹痛、黄だんなど。通常は軽症で済み、発症しない場合も多いが、妊婦や高齢者は劇症肝炎になるなど重症化しやすいと考えられている。