豚コレラがまん延する東海地方を中心に養豚農家ら400人が、名古屋市で開かれた決起集会に集結し、一致団結して難局を乗り越えていくことを誓った。終息が見えず東海の養豚業が危機的な状況にあることに、涙を流し声を詰まらす農家も目立った。全員が豚へのワクチン接種を強く求めた他、接種後の課題や防疫について言及する意見が出た。
窮状、要望、決意訴え
感染リスクがある中、入念な対策をした上で関係者が一堂に集まり、展望が見えない状況に対する強い危機感を訴えた。
愛知県半田市で母豚770頭を飼育する石川養豚場の代表、石川安俊さん(70)は「一度感染すると再開が難しくなり、誰もがおびえながら経営している。投資を諦める農家もいて、希望がない」と厳しい現状を説明。大規模化し、従業員を抱える農家が多い状況を踏まえ「豚コレラに会社の存続や多くの人の人生が懸かっている。安心して豚を飼育できる環境を取り戻したい」と主張した。
農水省がワクチン接種を検討し始めたことから、接種後に想定される多くの課題を指摘する声も出た。津市で1500頭の母豚を飼育する大里畜産の獣医師、杉山明さん(72)は「感染経路は多岐にわたり複雑なので、防疫が難しい。ワクチン接種後を見据え、長期的な対策を養豚業界が団結して考えたい」と強調した。
若い世代の参加も多かった。静岡県御前崎市で母豚300頭を飼育する栗山畜産の代表、栗山貴之さん(47)は「自己防衛を徹底することが基本。行政批判をしても解決しないので、豚へのワクチン接種に向け、行政と連携したい」と訴えた。
静岡県浜松市で母豚180頭の他、直売も行う鈴木芳雄さん(70)は「非常事態の中、400人を超す農家や関係者が集まったのは危機感と団結への強い思いの表れ。種豚農家もいる中でワクチン接種にはハードルもあるが、団結して克服したい」と見据えた。
岐阜市で最初に発生が確認されてから11カ月がたった。終わりが見えない豚コレラとの闘いに、農家には緊張感が張り詰めている。津市の養豚場の従業員、後藤和弘さん(34)は「防疫の徹底は限界まで毎日やっている。ワクチン接種後もまだ長期戦を覚悟しなければいけない」と話した。
防疫対策に正確な情報が届いていないことに対する問題提起もあった。石川県能登町の養豚農家、吉中伸一さん(63)は「柵の設置に750万円はかかるが、何とか防ぎたい。どんな柵なら最適か、何が正しい防疫か、情報がほしい」と主張した。
発生農場の被害者も多く参加。岐阜県山県市の武藤政臣さん(39)は5月下旬に2050頭を殺処分した。従業員を抱え再開を模索するが、感染イノシシが拡大する中で踏み切れない状況が続く。殺処分の手当金や補償金はまだ支払われていない。武藤さんは「どうやって生活すれば良いのか。ワクチン接種後は、と畜場や精肉店ともタッグを組む体制は整えている。国には早急に決断してほしい」と切実な表情で話した。
代表発起人で、愛知県の養豚農家有志代表として参加した西尾市の山本孝徳さん(51)は「愛知は県組織として意見集約ができていない。今こそ養豚農家が一丸となり、声を上げていくべきだ」と訴えた。質疑応答ではイノシシへの経口ワクチンの効果や縦割り行政、ワクチン接種の判断の遅さなど、政府への不満や怒りの意見が続出した。
集会後、長野県飯田市の養豚農家の今村篤さん(48)は「やるべきことや課題は山積するが、豚コレラ撲滅には協同の力が何よりも大切だと改めて感じた」と感想を話した。
https://www.agrinews.co.jp/p48353.html