岐阜県で家畜伝染病「豚(とん)コレラ」の発生が確認されてから、9日で1年が経った。県内では6万頭以上が殺処分され、飼育される豚の半数以上が失われた。9月に入っても中津川市で新たな発生があり、関係者は「岐阜から豚が消えるのでは」と危機感を募らせる。
「夢であってほしい」
8千頭を超える豚を飼育していた岐阜県関市の兼松真吾さん(56)は、感染を知らされた時、とっさに思った。昨年12月24日、クリスマスイブの夜だった。
防疫作業員が続々とやってきた。仮設テントを立てる乾いた音が響き、周囲を照らす光がまぶしかった。自動でエサを与える機械を止め、豚が腹をすかせて「ギャーギャー」と鳴く声が、耳から離れない。大切に育てた豚は、あっという間に埋められた。
大学の獣医学科を卒業し、父の農場を継いだ。最新の設備を導入して衛生管理に力を入れ、高品質の豚肉を出荷してきた自負がある。「なぜ、うちが……」。9カ月経った今も、悪夢の中にいるような思いだという。
年明け、追い打ちをかけるできごとがあった。「自治会役員一同」名の要望書が届き、「人間の生活圏から離れた場所で再開を」とあった。「長年、悪臭などに悩まされてきた」とも書かれていた。「理解してくれる人もいる」と思いながらもショックだった。養豚場は鳴き声やにおいがするとして、山林に近い場所で営まれることが多い。だがそうすると、イノシシなど野生動物から感染する可能性が高くなる。
「全国の養豚農家は、厳しい環境、競争の中で鍛えられてきた。自分も努力して対応できる力をつけなければいけない」。養豚場を守っていくと決意しているものの、再開のめどは立っていない。
https://www.asahi.com/articles/ASM977GGQM97OIPE00N.html