豚コレラ(CSF)に感染した野生イノシシが12県で1200頭以上に広がる中、野生鳥獣の肉(ジビエ)の加工施設が収入激減で苦境に立たされている。農水省は感染イノシシが見つかった半径10キロ圏内の流通自粛を呼び掛け、事実上出荷できない状況が続く。廃業の危機に立つ経営者は、支援の必要性を訴える。
自粛続き収入激減 「狩猟文化 廃れる」
長野県上松町では7月に豚コレラに感染した野生イノシシが見つかり、町のほぼ全域で流通と消費に自粛要請が出ている。「ジビエ工房木曽」を経営する狩猟歴32年の猟師、百田健二郎さん(72)は「狩猟で生計を立てている人もいる中、このままでは狩猟をやめる人も増えてくる」と憤る。
工房は売り上げの9割がイノシシ肉。今年は大手通販会社の要請で、11月からインターネット販売を始める予定だった。知り合いの狩猟者の肉も販売する計画だったが、白紙となった。損失額は約4000万円。「ベテラン猟師の経験を若者に伝えられなくなり、木曽の狩猟文化が消滅する」と危機感を募らす。
愛知県豊田市のジビエ加工施設「猪鹿工房 山恵」は、県内で豚コレラに感染した野生イノシシが見つかったことを考慮し、6月からイノシシの受け入れを中止した。売店責任者の鈴木良秋さん(68)は「このままの状態が続けば、もう営業できない。国が方針を決めてくれないと、現場も動けない」と苦悩する。
富山市のジビエ専門食肉処理施設「大長谷ハンターズジビエ」は毎年狩猟していたエリアのほぼ全てが、豚コレラに感染した野生イノシシ発生区域(半径10キロ圏内)に入った。代表の石黒木太郎さん(28)は「国主導でジビエを振興してきたのに、方向性が全く見えない。何も説明のないまま耐えるしかないのか。廃業しろということなのか」と語気を強める。感染原因が特定されないままでの半径10キロ圏内の定義も「曖昧だ」として、同省への不信感を募らす。
岐阜県郡上市で、若手猟師を中心にジビエの商品開発などに取り組む里山保全組織「猪鹿庁」の興膳健太さん(37)は「国はジビエの加工施設の設置を支援したのに、施設の被害は放置している。投資できる分野ではなくなり絶望的。発生圏内でジビエに携わる誰もが、泣き寝入りしている」と問題視する。
「解決法がない」
農水省は感染源拡大のリスク削減を目的に、野生イノシシ肉の流通を自粛するよう各自治体に要請する。豚コレラ被害に苦しむジビエで生計を立ててきた経営者らに具体的な支援策は講じていない。同省は「流通自粛で苦労している方がいることは認識してるが、解決法がない」と説明する。
https://www.agrinews.co.jp/p49315.html