2020/04/30【新型コロナウイルス:COVID-19】「介護崩壊」に現実味 集団感染で人手不足…社長が下した“決断”

4月初旬、系列のデイサービス事業所が介在する形で新型コロナウイルスの感染者集団が発生した福岡市東区など計3カ所の住宅型有料老人ホーム。いずれの施設もグループとして経営する「ヒーリングフルサービス株式会社」社長の原忠興さん(34)が西日本新聞社の取材に応じた。併設の訪問介護事業所も一時閉鎖を余儀なくされ、人手不足が深刻に。「入居者の暮らしを最低限維持するのが精いっぱい。職員の負担も限界だった」という。適正な介護サービスと感染拡大防止の両立をどう図るのか。現場の苦悩は深い。
胸ポケットに体温計を入れ、時に一睡もせず部屋を回った。何度も自身の脇に挟んだ。「自分の体より(社長も感染し不在になることで)施設が立ちゆかなくなることが怖かった。入居者も職員も路頭に迷わせられない、その一心だった」。原さんは振り返った。
▼一律の休業に疑問
最初に感染が発覚したのは1日。3ホームの一つ「あいくらす香椎参道」(同市東区)の入居者で、5日前に発熱し、前日から検査を受けていた70代の女性だった。「せきも肺の雑音もなく、訪問診療の主治医から(基礎疾患の)腎盂(じんう)炎が原因だろうと言われていたので驚いた」(原さん)
グループ内のデイと訪問介護も利用していたことから、市は同社に対し、両事業所の「おおむね2週間程度」の休業を要請する。「一度に多くが集まるデイの休業は仕方ない」と受け入れた原さんだが、訪問介護の事業所全体の休業は「想定外」だった。
朝夕の投薬や定期的なオムツ替え、洗濯、部屋の清掃…。中には認知症や要介護度の重い人も少なくない。日中の世話は訪問介護のヘルパーの役目。事業所を閉じれば事実上「生活ができなくなる」からだ。
入居者はすべて個室の単身者ばかりで“隔離”された状態。それぞれ担当のヘルパーは介護記録に残る。「発症前も含め濃厚接触の疑いがあるヘルパーだけを休ませれば、それ以外は働けるはずでは」…。原さんが提案した「現実的な対応」も認められなかった。
▼人手足りず最低限
代替策として、市は入居者それぞれのケアマネジャーに対し、他の訪問介護事業所を確保するよう求めた。ただ訪問介護業界は人手不足で事業所の数も少ない。何より「コロナ患者が出た施設の入居者を積極的に見ようとする事業者がいるとは到底思えない」。
案の定、別の事業所は見つからずじまい。それでも入居者の世話を休むわけにはいかない。原さんは決断する。濃厚接触に当たらないグループ内の職員を施設に総動員し、入居者に対応すること。ただ人が足りず「最低限のサービスしかできない」ため、介護報酬は受け取らないこと-。
いわば“無償”で介助を始めた。施設の関係者全員がPCR検査を受け、保健所から「濃厚接触もなく無症状、陰性でも2週間は自宅待機」を要請されたこともあり、マンパワーは最も少ないときで普段の3分の1以下に。家族に万が一移さないよう帰宅せず、2週間泊まり込む職員もいた。
陽性者は原則入院となるものの、受け入れ病床が確保されるまで数日、居室に待機した入居者もいる。そうした人の世話は「自分を含め(高齢者よりリスクが低いとされる)若い者が率先して担当した」。体がだるくても「睡眠不足が原因と自分に言い聞かせた。絶対コロナじゃない、と」。
施設には、無言電話など風評被害もあった。
▼柔軟運用も検討へ
同社によると最後の感染者が判明して2週間が過ぎ、今は回復して退院した入居者も。訪問介護やデイも段階的に事業を再開し、原さんは「お亡くなりになった人が出たことは申し訳なく残念だが、施設としては何とか乗り切れた」と感じている。
ただし「規模の小さな有料老人ホームがこうした事態に陥れば、介護サービスが継続できず、施設運営を投げ出す事業者も出てきかねない」と懸念。「行政側も画一的にルールを適用するのではなく、介護体制を維持するための運用や判断も必要では」と指摘する。
福岡市は「感染がグループ内に及んだため、訪問介護も一律に休業要請した」(事業者指導課)と説明。その上で「入居する高齢者の暮らしの維持も最優先。感染予防とのバランスは難しいが、今後は感染者対策の専門家の意見も参考にケース・バイ・ケースで、実態に即した柔軟な対応も考えていく」としている。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/604775/

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