2020/05/23【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナ後の世界、ホテル滞在はどう変わるか
「パンデミック(世界的大流行)時代」の今、世界中のホテルは新たな状況下での営業方針をなおも練り続けている。その内容がホテルによって千差万別となるのは確実だろう。しかし、どのホテルでも、宿泊客が次回チェックインする際には大きな変化を目の当たりにするのは間違いなさそうだ。
当面、すなわち新型コロナウイルスのワクチン、広範な効果のある治療法、瞬時に結果が分かる検査が利用可能になるまで、ホテルでは必要最小限のサービスしか提供されなくなる可能性が高く、特に昔から個人向けサービスやアメニティが「売り」の一つだった高級ホテルでその傾向が強くなる。そう語るのは、ニューヨーク州イサカにあるコーネル大学のホテル経営学部(ホテルスクール)教授、クリストファー・アンダーソン氏だ。
今後、多くの人が利用する施設・設備は減少するため、ビュッフェやミニバーはなくなり、さらにスパトリートメントやベルボーイ、クリーニングといった人と人が触れ合うサービスの多くは一時中断される可能性がある、とアンダーソン氏は予想する。
また宿泊客は、キーレスや非接触型のチェックイン・アウトを求めたり、可能な限り人との接触を避けたいと考えるだろう。
「今後は余計なサービスは排除し、基本的に1人でホテルに入って、エレベーターに乗り、全く物に触れることなく部屋に入りたいと思うようになるだろう。到着前に業者が部屋を完全に消毒しておいてくれるといくらか安心だ」(アンダーソン氏)
ソーシャル・ディスタンシングの徹底と衛生の向上
無論、ホテルにとって最大の懸念は衛生であり、多くの大手ホテルグループが衛生に関する新たなポリシーの概要を示している。
米大手ホテルチェーンのヒルトンは、大手総合病院メイヨー・クリニックの感染予防・制御チームの協力を得て、衛生に関するポリシーを策定している。ヒルトンは、表面や物の消毒のために、広範囲に消毒剤を満遍なく吹き付ける静電噴霧器や紫外線の使用を検討している。
米ホテルチェーン大手マリオットも静電噴霧器を使って客室やパブリックスペースの消毒を行うと発表しており、紫外線技術も試しているという。
またマリオットなど複数のホテルが、保健当局が規定した6フィート(約1.8メートル)のソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)を容易にするために、家具の撤去や設備の配置の見直しを行う。さらにマリオットは、客と従業員の飛沫(ひまつ)感染を防ぐため、フロントにプレキシガラス製のフェンスを設置することも検討している。
またラスベガスのザ・ベネチアン・リゾートなど多くの施設が、フロント、エレベーターホール、コーヒー店、娯楽施設などで客同士が適切な距離を保てるように立ち位置に印を付けるなど、ソーシャル・ディスタンシングの「6フィートルール」を徹底している。
ベネチアンのフロントの従業員は、ワークステーションを使用する際も、適切な距離を保つために1台おきに使用し、さらにスロットマシン、レストランのテーブル、プールラウンジャーなども規則に適合するように間隔を空けて配置されている。
またベネチアンは、エレベーターの1回の定員を4人とするよう勧めてる。ワシントンDCのハミルトンホテルに至っては、定員2人での使用を宿泊客に強く勧めている。
宿泊客の検査は行われるか
宿泊客や従業員の体温測定(検温)は、感染の可能性を検出するための1つの手段だが、各ホテルでどれほど広範囲に実施されるかは定かではない。
ラスベガスのザ・ベネチアンは、まだ営業を再開していないが、営業再開後は、目立たずかつ身体に負担を与えない体温測定を可能にするため、サーマルスキャナーを全ての入り口に設置するという。
ニューヨークのフォーシーズンズホテルは、4月上旬に医療従事者の受け入れを開始して以来、極めて厳格な暫定プロトコル(手順)を順守している。
これらのポリシーは、旅行危機管理会社インターナショナルSOSによって開発された。この計画の立案者である同社の上級副社長兼米州担当医療ディレクター、ロバート・キグリー博士によると、このポリシーには、ホテルの入り口を1カ所に限定し、そこで入場者の体温測定や、入り口に24時間配置される看護師による聞き取り調査を行うことなどが含まれているという。
しかし、現在フォーシーズンズホテル・ニューヨークで実施されているのと同水準のスクリーニングを全てのホテルやリゾート施設が実施するのは不可能だろう、とキグリー氏は指摘する。
「触れ合い」スペースやサービスの未来
ホテルのパブリックスペースや娯楽施設は、新型コロナウイルス時代に合わせた全面的な見直しが必要になる。
コーネル大学ホテル経営学部のアンダーソン教授によると、今は誰が何を触ったかを以前よりも厳しく管理されているため、例えばルームサービスは存続する可能性はあるが、ビュッフェは禁止される可能性が高いという。
またアンダーソン教授は、ビュッフェのようなサービスが、それがホテルの朝食ビュッフェかラスベガス風の本格ビュッフェかにかかわらず、かつての人気を取り戻せるか確信は持てないという。
同教授は、「今後、感染への意識が高まるので(中略)安全かもしれないし、パンデミックに対する恐怖もないかもしれないが、もはや心理的に魅力を感じないかもしれない」とし、今後は包装された出来合いの食品が解決策になる可能性が高い、と指摘した。
スパやジムといった人同士が触れ合う場所についても、ソーシャルディスタンシングが困難なため「感染のリスクは極めて高い」とキグリー氏は指摘する。
しかし、全てのホテルがこれらのサービスの提供を断念したわけではない。
タイのバンコクに拠点を置くアナンタラ・ホテル・リゾート&スパは、プライベート・パーソナルトレーニング・セッションを提供するとしており、またマンダリン・オリエンタルもスパなどの個人向けサービスの多くを提供したいとしている。
今後、世界中のホテルが顧客を安心させるための長い道のりを歩むことになるが、いかに早く顧客の信頼を取り戻せるかはまだ見通せないのが実情だ。
https://www.cnn.co.jp/travel/35154226.html