2020/06/03【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナ 重症化のメカニズムは? 解明に向け進む研究
新型コロナウイルスに感染し、重症化する仕組みを解明する研究が、世界各国で進められています。これまでに肺炎の悪化による急性の呼吸不全に加えて、血栓ができて血管が詰まるケースや、免疫の暴走で多くの臓器が機能しなくなるケースがあることが見えてきました。
重症化した患者のうち、最も多く報告されているのが急性の呼吸不全のケースで、ウイルスが肺の中で増殖して肺炎が悪化し、自力での呼吸が難しくなるため、人工呼吸器やECMOと呼ばれる人工心肺装置を使って、肺を休ませている間に患者自身の力でウイルスが排出されるのを待つ治療が行われています。
日本集中治療医学会のデータによりますと、日本国内では、最も重篤な症状になり、ECMOを装着された患者の約7割が回復しているということです。
また、血栓については、血管内にウイルスが入り込んだり、免疫が暴走して自分自身の体を攻撃する「サイトカインストーム」が起きたりすることによってできると考えられています。
血栓で血管が詰まって、心筋梗塞や脳梗塞などになり死亡したケースが欧米を中心に多く報告され、ニューヨークの2つの病院で、重篤化した257人について解析した報告によりますと、血栓ができていることを示す「Dダイマー」と呼ばれる指標の値が高く、死亡のリスクにも関わっていたと分析されています。
厚生労働省が、先月改訂した医師向けの診療の手引きの改訂版では、血栓への対応を示していて、必要に応じて血液が固まるのを防ぐ薬を投与するなどといった治療を推奨しています。
さらに、「サイトカインストーム」が、腎臓や肝臓など、複数の臓器で起き、多臓器不全となって死に至ったとみられるケースも、日本をはじめ、各国で報告されています。
こうした症状が見られる際には、免疫が患者の関節を攻撃して炎症を起こす病気、リウマチの治療に使われる、免疫の働きを抑える薬の投与が行われています。
このほか、子どもが重症化したケースとして、欧米では、全身の血管に炎症が起きる川崎病のような症状が報告され、中には死亡したケースも出ています。
日本川崎病学会などによりますと、これまでのところ、国内では同様のケースは報告されていないということですが、学会では今後も注視するとしています。
重症化しやすいのはどんな人?
WHO=世界保健機関によりますと、新型コロナウイルスに感染した人のうち、約8割は症状がないか、軽症ですみますが、約2割は重症化するとされています。
重症化しやすいとみられる人として、アメリカのCDC=疾病対策センターは65歳以上の高齢者に加えて、慢性の肺の病気や、重い心臓病、糖尿病、肝臓の病気などの持病がある人のほか、慢性の腎臓病で透析治療を受けている人、喫煙者やがんの治療や臓器移植などで免疫力が低下している人、それに重度の肥満の人などをあげています。
ぜんそく患者 重症化リスク高くないか
新型コロナウイルスで、どのような人が重症化しやすいか、世界各国で研究が進められていますが、これまで重症化しやすいと考えられてきたぜんそくの患者について、国立成育医療研究センターで中国とアメリカの患者のデータを解析したところ、重症化リスクは高くはないとみられることが分かりました。
国立成育医療研究センターのグループは、中国とアメリカなどの論文で示されている新型コロナウイルスの患者に関するデータをもとに、気管支ぜんそくの患者が重症化しやすいかなどについて解析しました。
それによりますと、約2200人のデータを調べたところ、気管支ぜんそくの持病がある人は重症化した患者のうち、5.5%だったのに対し、軽症患者のうちでは4.1%で十分な差が見られませんでした。
一方で、COPD=慢性閉塞性肺疾患や糖尿病の持病がある人は、重症患者に占める割合が明らかに高かったとしています。
研究グループによりますと、ぜんそく患者では、新型コロナウイルスが結び付きやすいたんぱく質が、鼻のまわりで多く現れていないことから、感染しにくい可能性があるほか、感染した際に重症化するリスクは高くはないとみられるとしています。
国立成育医療研究センターの松本健治免疫アレルギー・感染研究部長は「ぜんそくだからといって過度に心配することはないが、新型コロナウイルスへの感染を過小評価してはいけない。ぜんそくの治療を続けることは大切で、重症化のリスクについてはさらに慎重な調査が必要だ」と話しています。
新型コロナ治療の医師「新型コロナは全身性疾患」
新型コロナウイルスの治療の中核を担う、国立国際医療研究センターで患者の治療に当たってきた忽那賢志医師は「この感染症は重症化すると肺炎だけでなく、さまざまな臓器で炎症が起きたり、血液の凝固異常がみられたりするなど、呼吸器だけでなく全身性の疾患だという認識に変わってきている」と話しています。
そのうえで、忽那医師は「以前から指摘されているように、高齢の人や持病のある人ほど重症化しやすい傾向は変わらない。これまでの治療経験からも、がんや糖尿病、慢性の呼吸器疾患や高齢で複数の持病がある人などは重症化しやすく、最悪、亡くなることもあるため十分注意すべきだ」と指摘しています。
また、肥満の人や、喫煙の習慣のある人なども重症化しやすいという報告があるとして、「肥満の人は体重を減らしたり、たばこを吸う人は禁煙するなど、潜在的な重症化のリスクを減らすために、こうした人たちは次の流行に備えて生活習慣の見直しにも取り組んでほしい」と話しています。
さらに、若い人でも重症化するケースがあるとして「重症化する確率は年齢や持病の有無で変わるが、若くて健康な人でも重症化することはあるため、決して油断しないでほしい」と話しています。
https://www3.nhk.or.jp/…/20200603/k10012456601000.html