2020/06/08【新型コロナウイルス:COVID-19】もし社員がコロナに感染したら「すぐに・絶対」やるべき2つの対応
新型コロナウイルスの感染者数が減少傾向にあるとはいえ、社員を感染から守るための対策を続けていく必要があります。しかし、対策を続けていても社員が感染してしまったら、どう対応すればいいのでしょうか。今回は、あなたの会社の社員が新型コロナウイルスに感染した場合、企業の人事部などが「すぐ・絶対」にやるべきことをまとめたチェックシートを、プリンシプルBCP研究所の林田朋之所長が紹介します。
前回は、社員を新型コロナウイルス感染から守るための考え方や施策例についてお伝えしました。しかし、さまざまな施策を行ったにもかかわらず、社員がコロナに感染してしまったら、社員の健康管理を担っている人事部門と危機管理部門は、どのように対応すべきでしょうか。
最も重要なテーマは、「感染を拡大させない、クラスターを作らない」ことです。
現在までに、多くのコロナ関連情報に触れてきたほとんどの社会人には、新型コロナウイルス(COVID-19)に対するそれなりの知識があります。きっとあなたの会社の社員も、感染防止のためにマスクを着用し、人と社会的距離を保つようにしていることでしょう。
それらを踏まえ、全社および人事、危機管理部門の対応において重要なポイントとなるのが「エスカレーション」と「感染者・濃厚接触者の調査と記録」の2つです。以下で、詳しく解説していきましょう。
(1)エスカレーション
社員の感染を経営陣に緊急報告
危機管理担当者だけでなく、社員は誰でも、社内で感染者が判明したらすぐに上司あるいは危機管理部門および人事部門に連絡し、その事実を社長および危機管理担当役員、人事管理担当役員に速やかに報告します。
このような重大事案を経営陣に緊急報告することを危機管理では「エスカレーション」といいます。
(2-A)感染者・濃厚接触者の調査と記録
感染者の行動・高リスク度を調査・記録
次に、感染者および濃厚接触者の調査内容を詳細に記述・管理します。調査項目は管理シートとしてデータベース化し、何月何日何時何分に誰が何をしたというレベルの詳細な行動内容を記録します。
後にクラスターが発生したなど、社会的影響が大きい事態になった場合、保健所への情報提供や、会社として社長が記者会見を行うことも想定しておいてください。ここでは、当研究所作成の「COVID-19 感染調査シート」と「COVID-19 濃厚接触者管理シート」に従い調査管理内容を解説します。
まず「感染調査シート」に従って、感染経緯と濃厚接触者についての調査を開始します。この感染調査シートは、要配慮個人情報(※)を記載することにつながるため、電子ファイル、紙による書類のいかんにかかわらず、「最重要極秘資料」として扱ってください。電子ファイル保管する場合には、必ず暗号化を施すことを推奨します。また終息時には、全データを廃棄することも忘れないでください。
(※)本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪 の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益 が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含ま れる個人情報のこと。
通常このようなケースでは、ほとんどの感染者は既に自宅に待機しているか、あるいは病院に入院していて、携帯電話での会話になるかもしれません。
重篤ではない状況の場合、感染者の感染から発症に至る経緯をヒアリングします。可能であれば、当該シートに感染者自らが記載しても構いません。
ヒアリングに際しては、最初に、感染者が高リスク者か否かを特定するため、年齢と基礎疾患の有無を確認します。ここでの基礎疾患とは、心血管疾患、循環器疾患、生活習慣病(肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、腎臓病)、がんです。該当するものがあればマークするだけで、シートに病名は書かないでください。極力、詳細な個人情報をデータとして残さないためです。
次に、現在入院しているのか、感染者専用のホテルにいるのか、自宅待機なのかを区別します。
調査担当者が事前に調べられる関連情報(例えば自宅住所や自宅管轄の保健所情報など)は、あらかじめ情報を得て、本人に確認するという手順にしましょう。
(2-B)感染者・濃厚接触者の調査と記録
「発症の経緯」と「濃厚接触者」を洗い出す
では、肝心の感染から発症に至る経緯のヒアリングです。ここで濃厚接触者を洗い出します。
ここにおける「濃厚接触者」とは、「マスクをせず、手指消毒を行っていない状況で、手で触れることができる距離(目安 として1メートル)で、『コロナ陽性患者』と15分以上の接触があった者」と定義します。
1.感染したと思われる日時と状況:
通常、厳密に特定することはできませんが、外出先や家族の感染状況などから、感染した可能性がある経緯をいくつか聞き出します。
2.最初に症状が現れた日時とその症状:
発熱、せき、呼吸困難、味覚臭覚異常の発症日時です。
3.濃厚接触した相手と日時:
感染したと思われる日時以降に、濃厚接触したと思われる相手と日時、状況を聞き出します。
4. 保健所などへの連絡状況とその指示内容:
発症後に保健所等に連絡した日時と経緯、その指示内容を聞き出します。
5.PCR検査および陽性判明の日時:
PCR検査を受けた日時および陽性が判明した日時を聞きます。
6.入院/ホテル/自宅待機の開始日時:
現在置かれている状況、病院で入院しているか、隔離専用のホテルか自宅待機かのいずれかの開始日時を聞き出します。
7.現在の状況:
現時点での感染者の健康状態を記録します。
これまでの調査などから、COVID-19の潜伏期間は、最大14日間であり、通常は、3日~5日間程度といわれています。人に感染させる能力を潜伏期間内にも保持していると仮定すると、健康に見え、無症候状態である潜伏期間内に濃厚接触した人すべてが濃厚接触者となります。ですから、感染したと思われる日以降に濃厚接触した人を洗い出すことが大切です。
この例では、感染したと思しき日に同席している同僚(A~Dさん)、濃厚接触したと思われる人たち(A、B、F、G、H、Jさん)と彼らの上司全員にその事実を伝え、すぐに帰宅し自宅待機してもらうようにします。
もし社外の人に濃厚接触者がいれば、速やかに状況を伝え、対応をお願いしてください。
その他の留意点として、症状が出始めてから、2日間ほどが、最もウイルスを口鼻から出す量が多く感染を引き起こしやすいということが分かっていますので、この時期の濃厚接触者は特に注意が必要です。
(2-C)感染者・濃厚接触者の調査と記録
濃厚接触者の体調を管理し、感染拡大を防ぐ
濃厚接触者の洗い出しが終われば、その濃厚接触者の情報管理を行います。ここでは、先ほども紹介した「濃厚接触者管理シート」を基に説明します。
感染調査シートと同様、管理IDを付与し、濃厚接触者の情報を書き出します。最大14日間の潜伏期間を想定し、その間の体温(午前、午後)と体調について報告してもらいます。この部分は、この管理シート自体をクラウド上で機密フォルダ内の共有ファイル化にして、スマホやPCを使い、濃厚接触者自身で記述してもらうことも検討してください。
このように感染者が出たタイミングで、濃厚接触者を特定し、体調情報を管理することで、感染拡大を防ぐことが可能になります。同時に、感染者が発生した際のオフィスの消毒や翌日からの出勤時の全社員の体温測定も併せて行ってください。
また感染者が出たタイミングで、オフィス全体の社員がパニックになったり、興味本位で考えもなく、SNSを使って不適切な情報を発信したりすることのないよう、社員全員に感染者が発生した際の組織としての行動、社員としての行動について、あらかじめ教育し、その手順について周知することが重要です。
感染を100%防ぐことができないまでも、感染を拡大させないためにできることとは、感染者および濃厚接触者の管理です。同時に、社内の社員に対する精神的なダメージを少なくするために、公開可能な範囲でその後の状況説明を行い、フォローアップも忘れず行ってください。
●「COVID-19 感染調査シート」はこちら
https://diamond.jp/go/ct/pdf/Covid19CheckSheetWorker.pdf
●「COVID-19 感染調査シートの記入例」はこちら
●「COVID-19 濃厚接触者管理シート」はこちら
https://diamond.jp/articles/-/239302