2020/06/11【新型コロナウイルス:COVID-19】五輪スポンサー企業 65%が契約延長「未定」 新型コロナを懸念
来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックについて、大会を支えるスポンサー企業にNHKがアンケート調査をしたところ、65%の企業が契約を延長するかは「決めていない」と答えました。アンケートでは「大会に関わるすべての人の『健康と安全』が担保されることが大前提」など、新型コロナウイルス感染症を懸念する声が多く聞かれました。
NHKは先月、東京大会の組織委員会と契約するスポンサー企業78社に対し、大会の延期を受けたアンケート調査を行い、57社から回答を得ました。
スポンサー企業の契約期間は、大会が行われる予定だったことし12月末までのため、まず、大会の延期で契約を延長するか聞きました。
すると、12%の企業が契約を「延長する」と答え、65%の企業が組織委員会とまだ具体的な協議をしていないなどとして契約を延長するか「決めていない」と答えました。
新型コロナウイルスの企業の業績への影響は、68%が「悪化している」と回答し、契約の延長で追加の協賛金の負担を求められた場合には、「できない」または「金額による」と答えたのは合わせて14%で、多くの企業が回答を控えました。
一方で、スポンサー企業としての意見を聞いたところ、「大会に関わるすべての人の『健康と安全』が担保されることが大前提」「安心して出場・観戦できる環境が整っていることが不可欠」「世界中の人々、アスリートの生命・健康の安全を守ることが最優先」など、安全・安心を求める企業が16社あり、新型コロナウイルス感染症を懸念する声が多く聞かれました。
中には、「大会前や大会中のスポンサーのイベントはほとんどが3密で、感染者を発生させてしまうリスクもある」としたうえで「ウイルスの影響で宣伝の機会が失われている。大会が中止になる可能性もあり、追加負担は慎重にならざるをえない」と答える企業もありました。
また、契約を延長する方針の企業からも「『大会の再延期はない』と報じられていて、中止が心配だ。無観客試合でも業界にとっては中止も同然だ」といった意見もあり、来年の開催に不安を抱えている企業があることも明らかになりました。
多くのスポンサー企業が契約を延長するかは「決めていない」と答える中、組織委員会が新たな大会計画の中で感染症対策を明確に示せるかが、企業がスポンサー活動を継続するうえでの重要な判断材料となりそうです。
スポンサー企業とは
オリンピックとパラリンピックのスポンサー企業は、IOC=国際オリンピック委員会やIPC=国際パラリンピック委員会が契約を結ぶ、全世界での活動を対象としたものと、大会の組織委員会が契約を結ぶ、その大会に限って国内での活動を対象としたものに分かれています。
このうち、東京大会の組織委員会が契約を結ぶスポンサー企業は78社あり、契約期間は大会が行われる予定だったことし12月末までで、スポンサー料となる協賛金を支払うことで、大会のエンブレムを使って広告や宣伝をすることなどができます。
また、協賛金や活動の内容に応じて3つのランクに分かれていて、
▽協賛金の額は最も高いランクで1社当たりおよそ150億円、
▽2番目のランクで数十億円、
▽3番目のランクで10億円前後と言われていて、
個別の契約内容によって金額は異なります。
協賛金は大会運営のために充てられ、組織委員会は去年12月の予算で、組織委員会の収入6300億円の50%以上を占める3480億円を計上していて、スポンサー企業からの収入としては過去大会と比べて最多となる見込みです。
企業からの率直な声
アンケートに回答したスポンサー企業からは、さまざまな率直な声が寄せられました。
■スポンサー契約延長は“支える責務”
スポンサー契約を「延長する」と答えた企業は、
「大会に関わるすべての人が喜びを感じ、感動ができる大会運営の支援をしたい」
「これまで大会を支えてきたサービスを実施するのが責務」
「すべての選手が最高の状態で競技に臨めるようサービスを提供する」など、
大会を支える責務があるという側面を理由に挙げていました。
■追加の負担は
追加の協賛金の負担については
▽「負担できない」と答えた企業は、
「企業としても活動の継続のために大きな費用負担を強いられる。新型コロナウイルス感染症の影響で、大会を盛り上げる広告宣伝活動に制約が生じ、スポンサーの権利を生かした活動が十分にできない」と、スポンサー活動が思うように行えない現状を訴えました。
▽「金額による」「その他」と答えた企業からも、
「追加予算を負担する余裕がない」
「延期の理由や外部の環境から考え、単純に1年分の追加支払いは避けたい」
「業績が相当悪化した場合や、多くの取引先が倒産や廃業などに追い込まれた場合など、経営環境によっては拠出できない可能性がある」と、新型コロナウイルスの感染拡大による業績の悪化から、慎重な意見が聞かれました。
■大会開催に向けては
新型コロナウイルスの影響がある中での大会開催に対しては、
「ワクチンが開発されていることが最低条件だと思うが、果たして開発が間に合うのか、日本を訪れる外国人全員に行き渡るのか、などの疑問が残る」
「コロナ感染の懸念が最も高いのは、3密の環境がそろう選手村ではないか」など、
医療体制や感染拡大のおそれへの言及もありました。
一方で、
「懸念が払拭(ふっしょく)されないのであれば、そもそもIOCは、延期ではなく中止の判断をしているはずだ。当然、当社としてもリスクを鑑みて進めるが、基本は、そのIOCの考えを念頭において前向きに進めて行く」
「生命や健康への配慮を第一に考えたうえで、事態の好転に向けて開催の準備を整えるのは、開催国、およびIOCや東京都、大会を支えるわれわれスポンサー企業を含めたオリンピック・パラリンピックファミリーの責務だ。いまは人々に希望の光が届くことを信じて大会をサポートしていきたい」など、大会の成功に向けて“支えていく”決意も寄せられました。
専門家「組織委は安全な大会へ感染防止対策の情報発信を」
企業マーケティングに詳しい明治大学経営学部の大石芳裕教授は「現時点でスポンサー契約を延長したいと考える企業は、苦しい経営環境の中でも大会をサポートする意志を貫き通すことが評判を上げ、ブランド構築につながると考えていると思う。一方、決めていない企業は、来年に大会がやれるかどうかなどのリスクと自分たちのリターンを比較し、むしろマイナスになると考えれば、残念ながら下りる可能性はある」と話しています。
そのうえで、スポンサー企業の判断材料として、ことし9月ごろの新型コロナウイルスの状況や、同じ時期に見えてくる各企業の今年度の決算予測、そして組織委員会の感染防止対策を挙げました。
大石教授は「大会でクラスターが発生すれば、企業のプロモーション効果もネガティブになり、スポンサーとしていちばん恐ろしいことだ。組織委員会が安全な大会のために考えていることを発信し続けないと、スポンサー企業も疑心暗鬼になる」と述べ、組織委員会の情報発信の必要性を指摘しました。