2020/06/17【新型コロナウイルス:COVID-19】中国「サーモンからコロナ感染」疑惑の大波紋 専門家は魚から人への感染可能性には懐疑的 /中国

新型コロナ流行の「第二波」が懸念される北京で、サーモンが感染源と疑われている。そこに科学的な根拠はあるのか。「財新」取材班が徹底検証した。
新型コロナウイルスの感染者が相次いで見つかっている北京新発地卸売市場において、サーモンを切ったまな板の表面に新型コロナウイルス検査を行なったところ陽性だった。そのことが、サーモンから新型コロナに感染するのではないかという議論を呼んでいる。
複数のウイルス学者が財新の記者に説明したところによると、サーモンのまな板から検出された新型コロナの陽性サンプルは、サーモンそのものが新型コロナに感染して病原体を保有しうることを証明するものではなく、食品の表面やまな板がウイルスに汚染されていた可能性が高いという。現時点でサーモンそのものが新型コロナに感染し、感染源になりうるという科学的な証拠はなく、新型コロナに汚染された食物から人に伝染する可能性も極めて低いという。
6月13日に北京市の記者会見において、新型コロナ感染の確定診断を受けた4名の患者はすべて新発地市場と関連があったことが明らかにされた。新発地で働く職員に対して自発的にスクリーニング検査を行なったところ、45名から陽性反応が出た。もう1つの食品市場でも新発地の濃厚接触者1名から陽性反応が出たため、無症状の46名も“厳密な管理”のもとに置かれた。

スーパー、日本料理店がサーモン撤去

6月12日夜、新発地市場の張玉璽理事長は北京の地元紙「新京報」のインタビューで、関連機関がサンプリング調査をした際、輸入サーモンを切ったまな板から新型コロナが検出され、そのサーモンは(北京の)京深海鮮市場から仕入れられたものだったと述べた。北京市衛生健康委員会の広報担当者は13日の報告で、新発地市場内で発見された40件の陽性サンプルは“サーモンのまな板からのものもあれば、そうでないものもある”と発表した。6月13日、北京ではスーパーや日本料理店がサーモンを売り場から急いで撤去した。
では、サーモンが新型コロナに感染して感染源になることはありうるのだろうか? 今年4月に、国連食糧農業機関、中国水産科学研究院など世界の16の機関が《アジア水産学》(Asian Fisheries Science)において共同で発表した論文の中で、「魚類、甲殻類、軟体類と両生類を含む水産物が新型コロナに感染しうることを示す証拠はなく、したがってこれらの生物が新型コロナの感染源となることはない」と述べられている。新型コロナはコロナウイルス科、ベータコロナウイルス属に属する。コロナウイルス科には5属のコロナウイルスがあり、いずれも鳥類と哺乳類のみに感染し、ベータ属のコロナウイルスは哺乳類のみにしか感染しない。
コロナウイルスは通常、哺乳類や鳥類などの恒温動物の気道や腸管に感染するが、これまでの研究結果では変温動物がコロナウイルスに感染することは証明されていない。
次に魚類は変温動物であり、人は恒温動物であるが、一般的に遺伝分類上近い種ほど共通の感染症に感染しやすくなる。種の体温制御メカニズムから言うと、恒温動物間で共通感染症に感染する確率は恒温動物と変温動物の間における感染率よりも高い。遺伝分類上の魚、ヘビ、カメ、スッポンなどを含む変温動物と人との差は、鳥獣と人との差に比べてはるかに大きい。

処理の過程で汚染された可能性

英国グラスゴー大学のウイルス学者であるデビッド・ロバートソン氏は、「新型コロナの大流行後、哺乳類や鳥類以外の種に感染するという証拠は見つかっていない」と述べた。変温動物にも哺乳類の新型コロナ受容体であるACE2(アンジオテンシン変換酵素II)と共通の重要なアミノ酸遺伝子座をいくつか有するが、総合的に言えば両生類や爬虫類と哺乳類はそれほど密接な類縁関係にはなく、この受容体全体の類似度も共通のコロナウイルスに感染できるほど高くない。
米国ペンシルバニア大学医学部副研究員の李懿澤氏は、サーモンから新型コロナが伝染することはなく、魚をさばいたり切り身にしたりした人がウイルスに感染していて魚が汚染された可能性が高いと財新の記者に述べた。長江水産研究所副所長の陳大慶氏も財新の取材に対して、一般的に陸生生物と水生生物の疾病は交わらないと述べた。ウイルス学者で中国疾病予防管理センターのエイズ専門家首席である邵一鳴氏も財新の記者に対し、サーモンが新型コロナに感染することはありえないと述べた。
では、サーモンのまな板から見つかった陽性サンプルの新型コロナはどこから来たのだろうか? 前述の論文と専門家が述べるように、ほかの食品と同様に水産物の表面が新型コロナに汚染されていた可能性があり、あるいは食品工場の労働者がウイルスに感染した後、水産物に接触してその表面にウイルスが付着した可能性もある。新型コロナは低温の環境下で長期間生存することができ、以前のある研究によるとマイナス60度の環境下で数年間も生存できるとされている。したがって、ウイルスがコールドチェーンを介して水産物市場に運ばれたことは考えうる。
その後の接触でウイルスに感染した人からの「ヒト‐ヒト感染」がおきた可能性はある。北京市疾病予防管理センターの龐星火副主任によると、北京市ではすでに新型コロナウイルス肺炎と確定診断された症例が連続して見つかっており、疫学調査によればこれらの症例はすべて新発地市場を訪れた経歴があり、確定診断された症例と関連のあるサンプルを集めて核酸検査(PCR検査など)を行なったところ陽性反応が出た。
龐星火氏は「これらの症例は、市場内で汚染された環境に接触した、あるいは感染者に接触したことにより感染したと推定され、さらに感染者が増える可能性も否定できない」 と述べた。

食品を通じた伝染は考えにくい

「市場の環境や、サーモンを切ったまな板で他にどのような動物を調理したのか、また他の肉と接触したかどうかなどを引き続き掘り下げて調査すべきだ」と陳大慶氏は提言している。また、輸送の過程で人が運搬したことにより、あるいは魚をさばく過程で汚染された可能性もあり、彼は新発地市場のすべての水産物を検査するべきだとしている。
李懿澤氏が示すところによると、肉類の表面が汚染されていた可能性を考慮しても、汚染された食品を通してウイルスが伝染する可能性は低い。食品の表面上でウイルスが増殖することはなく、水洗いや調理で簡単に不活性化するという。李懿澤氏は「食品の上で細菌は増殖できるがウイルスは増殖できず、ウイルスが感染して複製し拡散するには生きた細胞(宿主)が必要だ」と述べる。
これまで全世界で報告されている新型コロナの動物感染例はすべて哺乳類であり、しかも人から動物という経路で感染している。米国ではトラ5頭、ライオン3頭、ペットのネコ2匹の感染が報告されている。

香港ではイヌ2匹とネコ1匹の感染報告

香港ではイヌ2匹とネコ1匹の感染が報告されており、中国科学院武漢ウイルス研究所がプレプリント(査読前論文)プラットフォームのbioRxiv上で発表した研究によると、武漢地区の102匹のネコをランダムに採集して血清検査を行なったところ、15匹のネコの血清から新型コロナに感染した証拠が見つかった。ベルギーでもペットのネコ1匹の感染が報告されている。
6月10日の時点で、オランダで10を超える養殖場のミンクに新型コロナの感染が発見された。オランダ農務部は現地時間の5月20日に、大規模ミンク養殖場で発生しているミンクの新型コロナ感染に関する段階的な研究結果を発表し、新型コロナが半水生の齧歯目の哺乳類であるミンクから人へ感染しうることを明らかした。これは今までで唯一報告されている、動物から人へ新型コロナが感染する可能性がある事例である。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 2017-8-7

    学術雑誌「医療看護環境学」を創刊致しました!

    学術雑誌「医療看護環境学」を創刊致しました! どうぞご利用ください! 医療看護環境学の目的 …
  2. 2021-4-1

    感染症ガイドMAP

    様々な感染症情報のガイドMAPです 下記のガイドを参考に、情報をお調べください。 感染症.com…
  3. 2021-4-1

    感染症.comのご利用ガイドMAP

    一緒に問題を解決しましょう! お客様の勇気ある一歩を、感染症.comは応援致します! 当サイトを…
  4. 2022-9-1

    感染対策シニアアドバイザー2022年改訂版のお知らせ

    感染対策シニアアドバイザーを2022年版に改訂しました! 感染対策の最前線で働く職員の…
  5. 2022-9-1

    感染対策アドバイザー2022年改訂版のお知らせ

    感染対策アドバイザーを2022年版に改訂しました! 一般企業の職員でも基礎から学べ、実…

おすすめ記事

ページ上部へ戻る