2020/06/17【新型コロナウイルス:COVID-19】医療崩壊と介護崩壊を防ぐために必要なこととは
新型コロナウイルスの影響で、医療や介護の現場は今もギリギリの状態が続いている。現場が崩壊しないために対策すべきことは何か、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が解説する。
ぼくの母校、東京医科歯科大学では、総力を挙げて新型コロナウイルスと闘っている。数億円をかけてICUを全面的に改装し、コロナ患者専用にした。手術も絞った。20あった手術室のうち17を閉鎖し、残りの3つで緊急手術などを行なっている。そして、病院前にテントを設置し、入院する患者さんたちのPCR検査を行なっている。水際作戦である。
病棟も再編した。ICUを含めた4つの病棟で、陽性者を診療できるようにした。さらに1病棟は、疑いのある患者さんを個室で管理できるようにした。陽性の人と陰性の人が混在している可能性があるため、いちばん神経を使う。
産婦人科も、この難しい課題に挑んでいる。妊婦がはっきりと陽性であれば、感染症指定病院の産科があるところで出産をする方法がある。しかし、家族などに感染者が出て、妊婦が検査結果待ちのときに陣痛がきたという場合にどうするか。何度もシミュレーションを行ない、陽性かもしれない妊婦さんのお産を支えようとしている。こうした対策は、一か月約12億円の収入減になるという。
医療崩壊だけでなく、介護崩壊も防がなければならない。欧米のデータでは、死亡者の半数近くは介護施設に入所している人たちといわれている。日本でもその兆しはある。共同通信の調査では、5月8日の時点で、介護施設で入所者474人と職員226人合計700人が感染している。そのうち79人が亡くなった。
富山市の富山リハビリテーションホームでは、50人以上が感染した。当時、富山市民病院で30人を超える院内感染が発生し、200人のスタッフが自宅待機になっていた。市内にある県立中央病院でも院内感染が起きていた。施設の陽性者を、病院が受け入れられない状況に陥ったのである。
大阪のリハビリ系病院では130人の陽性者が出た。ここでは感染が確認されている看護師を働かせたことで、さらに感染が拡大したと思われる。北海道の老人保健施設では100床のうち感染者は60人以上、11人が亡くなった。職員も20人以上感染した。それまでいた看護師はほぼ撤退。全国訪問ボランティアナースの会「キャンナス」が、看護師を派遣するなど態勢の立て直しをしているが、ひとたび施設で感染が起こるととても大変な状況が起こる。
在宅ケアでも、新型コロナへの対応が迫られている。訪問診療を行なっている悠翔会では、都内23区の5000人の在宅患者さんを、40人の医師が24時間体制で診ている。佐々木淳理事長の話では、意思がはっきり示せる患者さんの99%は、もし新型コロナに感染しても、家にいることを希望しているという。
在宅ケアを受けている患者さんは、がんの末期の人もいれば、パーキンソン病など難病をもっている人、認知症、寝たきりなどいろいろな人がいる。その人たちが、どんな状態になったときに入院するか、あるいは入院せずにずっと家にいるか、医師と話し合って自己決定するならば、それを実現する方法も作っていかなければならない。
ぼく自身は、がんの末期などで在宅ケアを受けていたら、新型コロナで病院に行きたいとは思わない。アメリカの論文では、65歳以上の新型コロナ患者は人工呼吸器を装着しても、97%が亡くなっているという。
これに対して、在宅ケアを行なっている医師の半数が、希望があれば在宅で新型コロナを診ると答えている。それには、医師や看護師が感染を防ぐこと、家族が感染しないことが重要になる。他の介護サービスはできるだけリモートにするなどの工夫も必要だ。課題はあるが不可能ではない。
風に立つライオン基金(https://lion.or.jp/)では、病院だけではなく、介護施設や在宅ケアを崩壊させないために、2000万円を投じて、サージカルマスクや高機能マスク、ガウンなどを医療や介護の最前線に送る活動を行なっている。特に、介護施設では医療物資の不足だけでなく、感染対策のノウハウも不足しているところが多い。施設に医師や看護師が赴き、ガウンの着脱の仕方など、感染対策のレクチャーも始めている。
新型コロナの感染は、第2波、第3波が起こるといわれる。その波をできるだけ小さくするためにも、コロナ最前線に医療物資を送る風に立つライオン基金の「風の緊急特別応援」にぜひ、ご協力をお願いしたい。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。