2021/05/12【新型コロナウイルス:COVID-19】日本初のコロナ陽性者実態調査「どこで感染したと思いますか?」

大阪府、東京都などを対象とする新型コロナの緊急事態宣言は再延長となり、宣言対象地域も5月12日から愛知県、福岡県に拡大した。繁華街での人流抑制を実現できたと菅総理は成果を強調したが、Agoop(東京都渋谷区)の人流データ分析などによると、ゴールデンウィークの東京などから宣言対象地域外の観光地などへの人流が大幅に増えており、感染が拡散した可能性がある。
そうした中、これまで活用されていないデータを使った感染抑制策を打ち出せないだろうか。
海外と違って日本では、政府外の研究者は政府・自治体保有のデータに簡単にアクセスできない。そこで中曽根平和研究所では3月中旬に一般国民向けの意識調査(有効回答数6122人)とともに第3波までに新型コロナ陽性になった人(既陽性者)に対する実態調査を行った(全国30万人から感染の有無でスクリーニングした有効回答数1599人)。医療機関や介護施設におけるクラスターで感染した高齢者は回答者の中にほとんど含まれなかったが、それらの回答者を除いた場合、回答者の分布は都道府県別感染者数、月別感染者数と大差ないことから、陽性者の代表性を一定程度確保できたと考えられる。
以下では既陽性者の声から今後の対策を考えたい。
■ 既陽性者が最も望む政策は? 
既陽性者が最も望んだ政策は「感染症陽性患者に対する誹謗中傷を行った者への罰則」(76.7%)とともに、「出勤・出張などを命じた従業員などが感染した企業への罰則導入」(77.8%)であった(図1)。
感染したことがない者(非感染者)は「公共の場でのマスク着用の義務化」(66.3%)を最も支持したが、「出勤・出張などを命じた従業員などが感染した企業への罰則導入」(59.8%)も3番目に支持が高かった。
一方、政府が新型コロナ特措法に導入した「営業短縮・休業要請に従わなかった事業者などへの罰金」は既陽性者、非感染者とも最も支持が少なかった。
■ 通勤・通学での感染を疑う既陽性者たち
ではなぜ既陽性者は企業へのペナルティを望むのか。最大の理由は、感染者の85.6%が何らかの仕事をしていることである(うち、正社員51.1%、会社役員13.3%、パート・アルバイト11.4%、自営業7.2%、派遣・契約社員4.6%など。職種別では事務職26.0%、営業職16.6%、専門・技術職16.6%、販売職8.9%、医療職7.6%など)。3月時点の全国15~65歳の就業率77.4%に比しても統計的に高く、仕事をしている者の感染リスクが高いことが分かる。年齢区分が違うが、東京都公表の都内感染者個票データでも20~60代で仕事をしている者は85%を占めている(職業非公表を除く)。
さらに自分が感染したと思っている感染経路と関係していることが伺われる。調査では「どこで感染したと思っているか」を自由回答として尋ねた。第3波での既陽性回答者のうち、7.5%の無回答を除くと飲食・会食は20.1%にとどまる。「全く心当たりがない。外出もせず、勤務先でも陽性患者が他におらず、友人たちでも症状がなく、どこで感染したか全くわからない。」「感染機会は思い当たらなかった。ほかの持病の症状があり不安になっていたところにたまたま検温したら発熱があった。感染機会を振り返ったが思い当たらないし、私との濃厚接触者は全員陰性だった」といった感染経路不明が30.4%であった。
一方、職場での感染が10.6%となっている。家族内感染も11.5%いるが、「夫の職場でクラスターが発生して」「同居している子供の職場で陽性者が出たため」「都内に働いている姉から」などと職場関連が散見される。
注目すべきは「飲食店への出入りはなく、職場は全員マスクを着用していた。強いて言えば、通勤時の電車くらいしか思い当たらない」など「通勤」を指摘する者が8.2%に上った点である。
尾身茂・政府分科会会長は昨年(2020年)7月31日の記者会見で「十分に換気されている電車通勤・通学では、マイクロ飛沫感染が起きる可能性は低い」と述べていた。しかし、筆者は東京、大阪などの各地の保健所の積極的疫学調査の原本を入手したところ、第1波初期を除いてそもそも通勤経路を詳細に聞き取っていることは少ない。つまり、保健所は尾身会長の言葉を受けて通勤・通学の感染の可能性を調査していないと推察される。
都道府県別でも例えば、東京都において5.5%の無回答を除くと感染経路不明が33.1%と最も多く、飲食・会食とする者が22.2%、職場での感染が4.1%に対して、通勤を挙げる者が12.4%を占めている。埼玉・千葉・神奈川の陽性者では東京通勤者が28.3%を占めるとともに、飲食・会食の比率はさらに低い13.7%の一方、職場10.0%、通勤11.3%を占めた。黒岩神奈川県知事は「(都知事の通勤抑制について)ここまでやるんですか?  って 、私、笑っちゃいました」と述べていた。しかし、県民を守るのであればむしろ3県の知事は東京都と一緒に東京の企業に対して通勤を止めてもらった方が感染抑制に機能すると考えられる。
大阪府においても5.9%の無回答を除くと飲食・会食とする者が18.9%に対して、感染経路不明が23.0%、家庭内感染が16.4%、職場での感染が9.8%、通勤を挙げる者が8.2%を占めている。
■ 時短・休業要請では感染者数を減らせない? 
既陽性者も多くは飲食・会食のリスクを認識し、行動していることが調査から分かる。第3波において感染が疑われる発症前14日間に外食を全くしていない者が4割(45.3%)を超え、外食でも一人飲食が24.7%で、複数人数で外食をしたのは29.9%にとどまる。
さらに飲食をした者のうち、「他の客も多く、混雑しており、感染対策も十分でなかった」は29.0%と、第1波、第2波のときより大幅に減っており、全陽性者の15.8%にすぎない(図2)。複数人数で外食をし、かつ「会話時にマスクを外す場面があった」とする者も全陽性者の11.6%にすぎなかった。このことが、飲食店への時短・休業要請では感染者数を減らすことができない要因となっていると考えられる。非感染者でも1月から3月までの第2回の緊急事態宣言下に1回以上外食した者が60.1%いることから、既陽性者がよりリスクの高い行動をしていたとは言えない。
以上の結果は保健所の全データを詳細に分析できれば政府・自治体も分かることである。
■ 非感染者も職場の感染対策を疑問視
非感染者でも、自分の職場での感染対策が十分だと思う者は49%にとどまり、疑問視する者が24%を占めた。1000人超の回答者が挙げた「感染対策が不十分な職場」の状況を見える化したのが図3である。
マスク、消毒、換気、密回避など基本的対策をしていない職場がまだまだ多いことが分かる。
まず、
「社長がコロナを軽く見ていてマスクもせず換気なども行わない」
「社員のみで室内にいる時、ほとんどの社員がマスクをしていない」
「お客さんと社員の間に仕切りがなく、マスクせずにくる人も多い」
などマスク着用が不十分な職場が多い。
消毒などについての意見も多く、
「消毒液置いてないわ、社長はマスクしてないわ、時差出勤もやらない、リモートワークやってないのに、補助金申請している」
「職員に危機意識が感じられない。出勤時に手洗いや消毒が疎かで、いつ利用者に感染させてもおかしくない」
などが挙がっている。
リモートワークについても、
「1つのフロアに大人数がいる、会話も頻繁に行われる。窓の開放はあるが、空気が入れ替えられているとは思えない。各デスクの間にアクリル板があるが、何の意味もないような置き方」
「リモートを推奨しているが、結局出勤を強いる」
などの意見が出された。
さらに感染者が出ている職場についても、
「マスクなしが多い。リモートワークは基本できない。何度か発症者が出ているが注意喚起のみで他は特に何もなし」
「感染者が出ているにもかかわらず感染者、濃厚接触者に2週間の自宅待機を与えず1週間で出社を命じていた」
と感染者が何度出てもおかしくない職場もあると思われる。
■ 企業へのペナルティとして機能する労災認定
経済と命・医療体制とのバランスを取るのであれば、経済優先の結果としての医療体制負荷へのコストは税金として国民が負担するのではなく、感染者を出す企業が負担すべきであろう。一方で新型コロナ特措法や感染症法の枠組みでは感染対策が不十分な企業にペナルティを課すことはできない。そうした中、ペナルティとして機能しうる制度に労災認定がある。
労災認定には陽性者にとってもいくつかのメリットがある。まず公務員、船員など除外業種が少ない上、正社員だけでなく、パート・アルバイトなど広く働く者が対象になる。また、職場だけでなく、出張や通勤途中でも労災適用が可能である。さらに労災と認められれば後遺症などで働けなくなった場合の賃金補償や傷害補償年金が支給される。そして何より労災の保険料は全額企業負担で、かつ保険料は過去3年間の事故発生実績に基づいて増減される。つまり、出勤・出張などを命じて従業員などが新型コロナに感染し、労災が認められれば、将来の労災保険料の増加が企業へのペナルティとして機能する。(注:現状、通勤途上の災害率の多寡は労災保険料に勘案されていない。)
一方、厚労省発表(4月23日現在)によると労災申請件数1万218件、決定件数5544件にとどまる上、その79.1%は医療従事者である。
それは労災認定にいくつかハードルがあるためと考えられる。まず労災申請の基本は会社が行うことである。また現在、厚労省は新型コロナにおける労災認定を従来より広く認めるよう通達をしている。しかし、それでも医療従事者以外については、感染経路不明であり、かつ(1)複数の感染者が確認されていること、あるいは(2)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下であること、と条件が付されている。複数の感染者は「同一事業場内で、複数の労働者の感染があっても、お互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もないような場合は、これに当たらない」と解釈されている。多くの保健所がマスクをしていれば濃厚接触者としないなど狭く解釈し、検査をしていない結果、「複数の感染者」に該当しないケースが多いと考えられる。
しかし、上述した通り、感染対策に不十分な職場も依然として多い中、感染対策徹底を求めつつ、感染者を増やさないようにするには労災の積極的活用を検討すべきであろう。具体的には「複数の感染者」という指針はなくし、医療従事者以外の者についても保健所の積極的疫学調査において感染経路が特定されない場合、保健所から労働基準監督署に労災申請を直接送致し、原則認定させる仕組みを作ることが必要である。会社が業務手続きを行わない場合には自分自身で労働基準監督署に請求書を提出することができる規定を最大限、活かすべきであろう。
実際、仕事をしている既陽性者のうち、53.2%が労災の申請予定、あるいは申請の希望をしていた。新型コロナの数少ないレガシーとして感染に強い企業、テレワークを当たり前にできる企業を増やすには旧厚生省と旧労働省の連携が求められている。
https://news.yahoo.co.jp/…/0601791ce406f3a221fcf563693d…

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