2021/08/30【新型コロナウイルス:COVID-19】沖縄病院69人死亡クラスターの真相 老親を守るための「6つの教訓」 /沖縄県

死者69人という国内最大規模のクラスターが沖縄県うるま市の病院で発生した。高齢者が入院する病院や施設は、感染拡大を招く要素がいくつも潜んでいると指摘されている。今回の惨劇を紐解くと、新型コロナの感染拡大から身を守るための教訓が見えてきた--。
丘の上に建つ3階建ての病院を指して、地元住民はこう語った。
「あそこは『看取り専門の病院』と言われていて、高齢で食事を喉に通すことも難しい人や寝たきりの人、認知症の人が県内全域から集まっている。在宅介護ができなくなった家族が頼る“最後の砦”なんです。それが、7月半ばから珍しく救急車が何度も来ていたので、“もしかしたらコロナが出たのでは”と噂が飛び交っていました」
8月17日、沖縄の病院で199人が新型コロナに感染し、入院患者の死亡が64人という衝撃的なニュースが報じられた。その後も収束する気配はなく、8月19日時点で死者数が69人に達している。
国内最大級のクラスターが発生したのは、沖縄県うるま市にある老年精神科病院「うるま記念病院」だ。沖縄県新型コロナ対策本部の広報担当者が語る。
「うるま記念病院は、高齢の患者の看取りまで行なう病院です。最初に陽性者が発生した段階で陽性者と陰性者を分ける『ゾーニング』を専門的に行なうことが難しく、両者が混在したことがクラスター発生の理由と考えられます。コロナ患者を隔離する陰圧室などの感染症に対応できる設備もありませんでした」
同病院で最初の陽性者が出たのは7月19日。折しも沖縄県の感染が急拡大する局面だったことも、大惨事を助長した。
「最初の陽性者が発覚してすぐ県に報告が入り、翌日にクラスター対策班が病院に医師や看護師を派遣しました。ただしこの頃はすでにデルタ株の蔓延で県内の医療従事者が手一杯になっており、十分な支援ができませんでした」(同前)
うるま記念病院の患者は高齢者のみで、入院しているのは認知症の患者が多い。巨大クラスターが発生した時、約270床の病床はほぼ埋まっていた。
同病院では今年1月にも入院患者と職員の76人が感染するクラスターが起きていた。同病院の広報担当者はこう語る。
「今回は1月のクラスターとは状況が全く違います。前回講じた対策が破られて感染が広まってしまった」
拡大した背景には猛威を振るうデルタ株の感染力も考えられるが、高齢者向けの病院施設特有の「弱点」があったとも指摘されている。
これはいつ他の高齢者病院や施設で起きてもおかしくはない。巨大クラスターの悲劇から、私たちは何を教訓とすべきか--。
◆【1】入居者の「自由度」が高い
「一般論としても、感染対策において高齢者病院や施設特有の難しさがあります」
そう指摘するのは、感染症に詳しい元外務省医務官で関西福祉大学教授の勝田吉彰氏だ。
「高齢者施設では、患者が病院スタッフの指示を守らないケースがとても多い。特に認知症の患者は、マスク着用を求めても嫌がって拒否する、『ここから動かないでください』と伝えても移動してしまう、誰かに抱きつくような様々な接触も起きてしまいます」(勝田氏)
うるま記念病院の病棟は2階と3階にあり、計4つのエリアに分かれていた。
「2階にはおおむねADL(日常生活動作)が全介助の方々が集中していて、3階にはADLが良好な方がいます。
1月のクラスターの時は、2階の寝たきりの患者さんが多い一つの病棟エリアのみで感染者が出て他には広がらなかった。ところが7月に発生したクラスターで最初の感染者となったのは、ADLが良好でほぼ介助なしで動ける3階の患者さんでした。この方が病棟を自由に歩き回ったことで、感染が広がったところはあると考えられます」(前出・同病院の広報担当者)
同病院では、自分で動ける患者であれば、他のフロアにも自由に行き来することができるという。その自由度の高さが、結果的には巨大クラスターを招いてしまった。
面会については一般の病院と同様に昨年から制限をしていたが、必要性が認められる場合は実施していたという。
「主治医が患者さんの余命と急変リスクを考慮し、1家族2人まで10~15分の面会を許可していました。患者さんを移動させることが難しいため、面会は6人部屋に直接入ってもらう形でした」(同前)
一般に病院内で感染者が出た場合は、清潔地域と危険地域などを分ける「ゾーニング」や、感染者や濃厚接触者を1か所に集める「コホーティング」が求められる。
だが、その対応も難しかった可能性がある。
「患者を一方的に同じ場所に集めると、そりの合わない者同士で喧嘩などのトラブルが生じやすい。そうした危惧があるため、感染制御の理論を用いた迅速な対応が難しくなります」(前出・勝田氏)
◆【2】共用スペースがある
同病院で最初に感染者が出た3階には男女共用の大きなホールがあり、入院患者は自由に出入りすることができた。勝田氏が語る。
「施設内の男女共用スペースは、デイルームと呼ばれます。そこに患者が集まれば感染拡大の要因になります。ただ判断が難しいのは、高齢者病院や施設の認知症のある人の場合は、一日中ベッドで寝ていると状態が悪くなることで、デイルームに行くよう促すのも治療の一環です。作業療法としてデイルームなどでリハビリを指導することがプログラムに含まれるケースもあります。高齢者にとって大切な場であることは間違いありません」
同病院には各階に自動販売機があり、患者は自由に利用することができたという。
医療経済ジャーナリストの室井一辰氏はそうした共用スペースにも注意が必要と語る。
「病院では、入院患者と外来患者が往来する院内の売店に、医師や看護師などの医療従事者も多く訪れます。なかには院内の食堂を医療従事者以外が利用できるケースもあります。コロナで中止しているところもありますが、不特定多数が出入りする共用スペースは感染リスクが高くなるので要注意です」
◆【3】窓が開けられない
病院や高齢者施設特有の安全対策でつくられた構造が、感染拡大につながることもある。前出・勝田氏はこう指摘する。
「一般的に精神科を中心とする病院や高齢者施設は、事故などを防止するために病室の窓が開けにくい構造になっています。必然的に換気が難しくなり、病室内の感染リスクが高まります」
うるま記念病院の病室は基本的に6人部屋だった。同病院の広報担当者も換気の困難を認める。
「当院は老年精神科病院のため全面的に窓を開放して換気することは難しかった。危険を伴わない範囲で可能な限りの換気に努めていましたが、十分でなかったとは考えられます」
◆【4】エレベーターが1基だけ
うるま記念病院によると、病院内にエレベーターは1基だけだった。そのため、勤務する医療関係者は不安を口にした。
「1基しかないエレベーターで、患者の食事の配膳もすれば、医療廃棄物や汚染物、遺体の搬送などでも使用することになり、対策に限界を感じる」
前出の勝田氏は「飛沫感染にも注意が必要」と語る。
「現在の研究では、接触感染よりも飛沫感染のリスクのほうが高いとされます。エレベーターなどの狭い室内でマスクをせず、くしゃみや咳をすると感染リスクが高まるので注意すべきです」
◆【5】ワクチンの本人同意ができない
感染後の重症化を予防する最大の切り札となるのがワクチンだ。うるま市の新型コロナワクチン接種推進室室長はこう語る。
「うるま記念病院はワクチン接種できる市内20か所の医療機関のひとつでした。同病院からは患者のためのワクチンの要請があり、市から6月末までに494回分、7月末までに522回分を配布していました」
だが、ワクチンが配布されても接種は進まなかった。クラスターが発生した7月時点で、病院職員の9割が2回の接種を済ませていたものの、患者の接種は1割、それもほとんど1回のみの接種にとどまったという。
「ワクチンは本人に同意する能力があれば本人に確認して接種しますが、同意が難しければ家族の同意を得て行ないます。しかし職員の接種を済ませたのが6月末で、7月に入って患者さんの接種を進めようと動いていた段階で、タイミングが悪くクラスターが発生してしまったのが実情です。再三指摘されていますが、患者さんへのワクチン接種が遅れて1割にしか届かなかったことが、クラスターになった大きな原因だったと思っており、しっかり検証して次に繋げていくことが大事だと思っています」(前出・同病院の広報担当者)
◆【6】他の施設と連携している
同病院の近隣には、系列の特別養護老人ホームがある。同病院はその関連医療機関になっており、デイサービスやリハビリ、基礎疾患の治療などで利用者が病院とホームを行き来することがあった。
こうした連携は全国の施設でみられるが、落とし穴もあると前出の室井氏が指摘する。
「同病院のように地方では老人ホームと病院をグループ経営している法人が主流で、相互の行き来によって手厚いケアができるメリットがあります。ただし人の往来があるため感染拡大期はリスクが高くなる。これまで病院と関連施設の往来のリスクはあまり着目されなかったが、今回の件をきっかけに感染対策を見直すべきでしょう」
本誌・週刊ポストは同病院で7月以降に亡くなった複数の入院患者の親族を取材したが、一様に「コロナで亡くなったかはわからない」と言葉を濁した。コロナ禍もあって、入院先の状況を把握できていなかったと語る遺族もいた。
「いま、高齢者医療従事者や介護職員からよく聞くのは、入院した家族への見舞いや連絡をまったくしていない家族が多いということです。コロナ禍で面会は制限されていますが、感染対策という面でも注意点がないかチェックしておくことを勧めます。なるべく本人や施設関係者とは密に連絡を取り、どのような状況でいるのか確認しておくことが重要です」(室井氏)
クラスターの悲劇から家族を守るためにも、改めてリスクを確認しておきたい。
https://www.zakzak.co.jp/soc/amp/210830/dom2108300013-a.html

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