RSウイルスが全国の保育所で猛威を振るっている。今年7月までに2018年や19年の規模を上回っている状況だ。すでに全都道府県で感染者が確認されており、現場では警戒感を強めている。
■高い乳児へのリスク
RSウイルスは、発熱や鼻汁、せきなどの症状が出る呼吸器感染症。生後2歳までにほぼ全員が感染するが、再感染もある。
生後6カ月未満の場合は入院するリスクが高く、その際は酸素投与や輸液などの対症療法を行う。先天性心疾患やダウン症候群の子どもは重症化しやすい傾向があるという。
「今年は何がどうなっているのか」
こう驚くのは堺暁福祉会(大阪府)の斎藤三枝・あかつき保育園長だ。同園では6月までに0歳児と1歳児でRSウイルスに感染した子どもが8割に上った。
新型コロナウイルス感染症もあり、同園では感染対策を徹底している。1日に清掃を3回行うほか、希釈した塩素系漂白剤で1日4回もドアノブなどを除菌するという。
斎藤園長は「新型コロナの影響で、昨年は家庭でも感染対策を徹底したせいか、まったくRSウイルスが発生しなかった。同じように対策を講じているのになぜこんなに違うのか不思議だ」と話す。
■感染は全国で
RSウイルスは第5類感染症であるため、指定された約3000カ所の医療機関が毎週、状況を報告することになっている。
国立感染症研究所のまとめによると、指定医療機関からの報告は、3月上旬(第10週)以降、増加傾向に。その後、一時は落ち着いたものの、5月上旬(19週)あたりから急増している。7月中旬(27週)には、1機関当たり5・99人に達しており、19年の同時期と比べると9倍以上に当たる。
ピークを迎える時期についても例年と異なる。これまでは9月ごろが最も多く、夏に流行するのは珍しい。しかも現在までに最多だった7月中旬時点の人数は、19年のピーク時の1・7倍に上る。その後は減少傾向にあり、このまま収束する可能性もある。
地域別では、21年の3月や4月は九州が多く、その後全国に広がった。6月以降は全県で確認され、7月中旬時点では徳島、高知、新潟、三重、和歌山の順で多くなっている。
■理由は不明
こうした流行について同研究所は「RSウイルスの報告数が増えている要因は専門家や研究者の間でも議論されている」としており、原因は分からないという。また、例年と異なる時期に流行した理由についても「明らかなコンセンサスはない」としている。
厚生労働省は、保育所に対するガイドラインで「基本は病原体を含む飛沫ひまつを吸い込まないようにすること」としており、急な発病には別室で保育することなどの対応策を示している。
一方、全員が2メートルの距離をとることは現実的でないとして「保育所内での流行を防ぐことは容易ではない」と警鐘を鳴らす。
同研究所によると、昨年に急減したのはRSウイルスだけではない。インフルエンザや手足口病も同様に急減しており、現場の警戒感は強い。
これについて同研究所は「国民の行動変容や海外渡航制限など多様な要素の影響を受ける可能性があり、専門家の間でも意見はさまざまだ」としている。
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