2021/10/01【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナ、新規感染者急減で注目される「エラーカタストロフの限界」理論

■相次ぐクラスター

政府は新型コロナウイルス対策として、東京や大阪など19都道府県に発令中の緊急事態宣言を9月30日に解除した。ワクチンの接種が順調に進み、新規感染者の減少傾向が鮮明になっており、自宅療養者数や入院率などの数値も劇的に改善している。
宣言解除後、政府は日常生活に関する行動制限を段階的に緩和する方針だが、不安の声も上がっている。2回のワクチン接種を終えてからの感染(ブレークスルー感染)によるクラスターの発生が、病院や高齢者施設などで相次いでいるからだ。
群馬県伊勢崎市の病院では、入院患者17人と職員8人の計25人の感染が判明した。うち24人はワクチンを2回接種済みで、残る1人は1回接種したのみだった。和歌山県高野町の特別養護老人ホームでは、施設利用者12人と職員2人の感染が確認されている(うち1人は重症)。この感染者全員がワクチンの2回接種を完了していた。

■約8割がワクチン未接種者

ブレークスルー感染は海外でも起きている。ワクチン接種完了率が8割を超えるシンガポールでは、感染者が9月に入り急増している。感染者の98%が無症状・軽症にとどまっているものの、重症者数や死者数が増加傾向にあることから、政府は27日、ワクチン接種者に認められる外食の上限を5人から2人に引き下げるなど、行動制限の強化に踏み切った。
日本でも同様の傾向が見られる。ワクチンによるコロナの発症や入院を予防する効果は8~9割と報告されており、重症化するリスクは低い。国内で発生しているクラスターのほとんどが、軽症又は無症状だ。24日、東京都は「感染拡大第5波で都内で亡くなった人の約8割がワクチン未接種者だった」ことを明らかにしている。
見劣りするとされる感染予防効果についても、期待が持てる調査結果が出てきている。大阪府が8月29日までの2週間の未接種者と2回接種者の感染割合を比べたところ、30代以下で約12倍、65歳以上で20倍以上の差があったという。厚生労働省も「感染リスクに約17倍の差がある」との見解を示している。

■予防効果は接種から4カ月で半減

だがワクチンの感染予防効果には落とし穴がある。英オックスフォード大学が19日に発表した研究結果によれば、ファイザー製ワクチンの感染予防効果は接種から4カ月でほぼ半減し、ワクチン接種者が感染力の強いデルタ株に感染した場合、ウイルス保有量は未接種者と変わらなかったという。また、ブレークスルー感染は症状が軽く、感染そのものに気づきにくいことから、無症状のまま他人にうつしてしまい、クラスターが生じる原因となる。
このことからわかるのはワクチンを2回接種したとしても、感染対策が引き続き欠かせないということだ。コロナのような呼吸器感染症が蔓延しやすい冬場にかけてはなおさらである。
パンデミック以降、マスク生活が当たり前になったが、感染力が強いデルタ株を予防するためにはウレタン製や布製ではなく、不織布マスクの着用を徹底すべきだ。「ヨウ素液によるうがい」も有効だ。ヨウ素液を満たした試験管では、新型コロナウイルスは10秒で不活化する(死ぬ)ことがわかっている。換気対策として1時間に2回程度の窓開けでは不十分であることがわかっており、これに関するてこ入れも不可欠だ。

■タミフルのような効果

正念場とも言える冬場が近づく中、「新型コロナウイルスを治療する飲み薬が年内にも登場する」との朗報が届いている。日本を含む世界各国で、米国のメルクやファイザーが軽症者向け薬剤の最終段階の臨床試験を進めている。いずれも体内でウイルスの増殖を防ぐための薬剤であり、インフルエンザ治療で使われるタミフルのような効果がある。
経口だけに点滴タイプの既存の治療薬と比べて投与しやすい上、量産が簡単なことからコストが抑えられるメリットもある。菅首相は25日、「経口薬を早ければ年内にも実用化できる可能性がある」と述べた。「コロナのリスクをインフルエンザ並みに抑えられる日が近い」との期待が高まる。
最後に残された懸念事項は、ワクチンなどが効かない耐性株の出現だ。国内外で新たな変異株が次々と発見されているが、アストラゼネカのワクチン共同開発者であるオックスフォード大学のセーラ・ギルバード教授は、22日、「感染力が強いデルタ株以上に致命的な変異株が登場する可能性はない」と述べた。新型コロナウイルスが人体の免疫を避けるためにスパイクタンパク質を変異させすぎると、これによりかえって人体の細胞に侵入することができなくなる。このせいでウイルスが抗体を回避しながら感染力を強化することには限界があるという説明だ。デルタ株の登場後これまでのところ、デルタ株を凌駕するような危険な変異株は出現していない。

■自滅するウイルス

さらに、日本での新規感染者が8月から9月にかけて急減したことで、「エラーカタストロフの限界」という理論にも注目が集まりつつある。「エラーカタストロフの限界」とは、1971年に米国の進化生物学者が提唱したもので、「ウイルスは変異しすぎるとそのせいで自滅する」という主張だ。50年前の説が注目されるようになったのは、インドはデルタ株の出現で最悪の事態に陥ったが、充分な対策が採られなかったのにもかかわらず、急激に感染者が減少したことがきっかけだ。
児玉龍彦・東京大学先端科学技術研究センター名誉教授は、ウイルスのコピーミスを修正するポリメレースという酵素に変異が生じたことで、コロナウイルスの変異速度が格段に上がっていると指摘する。これが正しいとすれば、「今後デルタ株を超える大波が襲来する」ことを必要以上に恐れる必要はなくなる。
過度の楽観は禁物だが、これらの事情を踏まえ、筆者は「日本に『ウイズコロナ』の日が来るのは近い」と考えている。
藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。
https://news.yahoo.co.jp/…/3a04b5a83393dfacbede4734e8a3…

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