これまでにないペースで感染が拡大する「オミクロン株」。
感染力の強さを示す報告が世界中から相次ぎ、2回のワクチン接種では発症の予防は難しいことが分かってきた一方、重症化や入院に至るリスクは低いという報告が増えてきています。
しかし、欧米では、入院に至るリスクが下がっている分を凌駕するように、感染者数が大幅に増加し、入院者数も急増。国内でも実際にオミクロン株による感染が急拡大し、沖縄では医療従事者への感染なども報告され、医療の担い手が足りなくなることが現実化しつつあります。感染や重症化のリスク、医療への負荷はどうなるのか。
これまでに分かってきたことをまとめました。(2022年1月12日現在)
■オミクロン株で感染者急増 “第6波” 指摘も
新型コロナウイルスの感染が急拡大しています。
沖縄県や東京都などで前の週の10倍以上になるというこれまでにない急増で、政府は、2022年1月9日から沖縄、山口、広島の3県にまん延防止等重点措置を適用しています。
国内で初となる市中感染のケースが大阪府で報告されたのは2021年12月22日で、その時点で全国の感染者数は250人程度でした。
それが、2022年1月4日に1265人とおよそ3か月ぶりに1000人を超え、その後、1週間余り後の12日にはおよそ4か月ぶりに1万人を超えました。
市中感染の初報告からまだ3週間ですが、沖縄県や大阪府などでは、すでにデルタ株からオミクロン株への置き換わりが進んできています。
先週末からの3連休、成人式や関連した集まりで、感染がさらに急拡大するおそれがあり、専門家の中には、オミクロン株による感染拡大の第6波が始まったと指摘する人もいます。
■WHOは“感染力上がる”明記
WHO=世界保健機関は、1月11日付けの週報で、オミクロン株の感染力について、「感染力が上がっている」と明記しました。
WHOは、累積の感染者数が2倍になるまでにかかる「倍加時間」という数値が、オミクロン株の場合、これまでの変異ウイルスに比べて短いとしています。
1月6日に開かれた日本の厚生労働省の専門家会合で、国立感染症研究所のグループが示したデータでは、1月5日時点の推定で、直近1週間の倍加時間は沖縄県で1.3日、大阪府で1.7日、東京都で1.9日だったということです。
WHOの週報では、家庭内での「2次感染率」はデルタ株の21%に対し、オミクロン株は31%だったとする、2021年12月のデンマークでの分析結果を紹介しています。
アメリカのCDC=疾病対策センターは、オミクロン株の感染力は最大でデルタ株の3倍とするデータがあるとしています。
欧米各国ではデルタ株からオミクロン株への置き換わりが急速に進みました。
イギリスでは2021年12月30日までの時点で、イングランドのほとんどの地域で検出される新型コロナウイルスの95%ほどがオミクロン株だとみられています。
CDCによりますと、アメリカではオミクロン株の占める割合は1月8日までの週で98.3%と、ほぼ置き換わったとみられています。
日本国内でも、北海道大学と京都大学のグループの試算によりますと、1月15日ごろには大阪府でオミクロン株の割合が90%を超えると予想されるとしています。
さらに、感染してから発症するまでの潜伏期間が短く、感染者が増えるペースもこれまでより速いという特徴も見えてきています。
潜伏期間は、沖縄県での積極的疫学調査の暫定的なデータではおよそ3日と、オミクロン株以外の4.8日より短くなっています。
韓国の保健施設での感染例の解析でも3.6日で、デルタ株の3から5日より短くなっています。
■重症化リスク↓も慎重に見る必要
感染した場合に重症化する割合について、低いという可能性が高まっています。
WHOは1月11日の週報で、オミクロン株による入院と重症化のリスクは「下がっていると見られる」とまとめました。
また、WHOの責任者は、1月4日、オミクロン株の症状について、鼻やのどといった上気道の炎症を引き起こしやすいものの、ほかの変異ウイルスと比べて肺まで達して重症化するリスクは低いという見解を示しています。
一方で「証明するためにはさらなる研究が必要だ」と慎重な姿勢を示しています。
オミクロン株による重症化リスクについて、国内では、沖縄県での初期段階のデータが示されています。
療養者の数が650人に達した時点での症状を分析したところ、▼従来株が流行していた2021年4月1日では、重症が0.6%、無症状や軽症が84.8%、▼主にアルファ株が流行していた2021年7月18日では、重症が0.9%、無症状や軽症が72.8%だったのに対し、▼オミクロン株が中心の2022年1月4日では、重症は0%、無症状や軽症が92.3%でした。
ただ、専門家は、現時点で沖縄でのオミクロン株の感染者は若者が圧倒的に多く、今後、高齢者にも感染が広がった場合、重症者数が増える可能性があるとしています。
また、イギリスの保健当局によりますと、オミクロン株に感染して入院に至るリスクは、デルタ株の場合に比べて3分の1になっているとしています。
さらに、2回目のワクチン接種を終えてから14日以上の人では、ワクチンを接種していない人に比べて、入院するケースは65%低く、3回目の追加接種を受けてから14日以上の人では81%低くなっていました。
ただし、このデータを見る際には注意が必要です。
3回目の追加接種を行うと、オミクロン株に対しても重症化を防ぐ効果が上がるとされていますが、イギリスでは3回目の追加接種を済ませた人が2022年1月10日の時点で62.3%に上っています。
日本では1月12日時点で0.8%にとどまっている点が大きく異なります。
WHOは入院に至るリスクが下がっているにもかかわらず、感染者数が非常に多いことから、入院や重症化、死亡例は大きく増加していて、医療体制に大きな負荷がかかっているとしています。
アメリカでは、1月3日、1日に報告される感染者数が100万人を超え、これまでで最も深刻な状況になっています。
子どもの感染者数も急増し、1月6日までの1週間で、子どもの新規感染者数は58万人と過去最多を大きく越えました。
特にワクチン接種の対象年齢に達していない4歳以下の子どもの入院率が上昇していて、CDCによりますと、この年代で、1月1日までの入院率が人口10万人当たり4.3人と、その前の週の2.6人から大きく増えています。
■ワクチンの効果
オミクロン株は、ワクチンを接種した人でも感染するケースが報告されています。
WHOは1月11日付けの週報で、「再感染のリスクは上昇している」としました。
また、2回接種の効果について「感染と発症を防ぐ効果は減少し、重症化を防ぐ効果も下がっている可能性があるとみられる」としています。
イギリスの保健当局が示したデータでは、オミクロン株に対しては、ファイザーやモデルナのmRNAワクチンで、2回の接種から2週間から4週間後には発症を防ぐ効果が65~70%でしたが、20週を超えると10%程度に下がっていました。
ファイザーのワクチンを2回接種した人が3回目にファイザーかモデルナの追加接種をすると、2週間から4週間後には発症を防ぐ効果は65%~75%に上がりました。
ただ、5週間から9週間後では55~70%に、10週を超えると40~50%に下がりました。
います。
ファイザーやモデルナ、それにアストラゼネカのワクチンを接種した人で分析すると、入院に至るのを防ぐ効果は、2回の接種後2週間から24週間では72%、25週を超えても52%、3回目の追加接種をしたあと、2週以降だと88%となっていました。
■これまでの変異ウイルスとの比較
感染力や病原性など、いま分かっていることをWHOや国立感染症研究所、各国の公的機関などの情報をもとに、ほかの「懸念される変異株=VOC」と比較する形でまとめました。
▼感染力
オミクロン株の感染力の強さを示すデータが、各国から報告されていて、感染力の強さは確実になってきています。
▼病原性
『アルファ株』→入院・重症化・死亡のリスク高い可能性
『ベータ株』→入院のリスク・入院時の死亡率高い可能性
『ガンマ株』→入院・重症化のリスク高い可能性
『デルタ株』→入院のリスク高い可能性
『オミクロン株』→入院・重症化リスク低い
オミクロン株では、入院に至るリスクや重症化リスクがデルタ株に比べて低いという報告が相次いでいます。
一方で、イギリスの保健当局は、オミクロン株は重症化リスクが低いといっても、感染拡大のスピードの速さや免疫から逃れる性質があるため、必ずしも医療機関への負荷が減ることを意味しない、と強調しています。
欧米では、実際に感染者数が激増し、入院者数も急増しています。
▼再感染のリスク
『アルファ株』→ウイルスを抑える抗体の働きは維持、再感染のリスクは従来株と同じか
『ベータ株』→ウイルスを抑える抗体の働きは減る、ウイルスを攻撃する細胞の働きは維持
『ガンマ株』→ウイルスを抑える抗体の働きはやや減る
『デルタ株』→ウイルスを抑える抗体の働きは減る
『オミクロン株』→再感染のリスク上がる
WHOでは、ワクチンや過去の感染によって免疫を持つ人でも再感染しやすくなる変異があるとしています。
イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンは、オミクロン株の再感染のリスクは、デルタ株に比べて5.41倍と高くなっているとする報告を出しています。
▼感染力
オミクロン株の感染力の強さを示すデータが、各国から報告されていて、感染力の強さは確実になってきています。
▼病原性
『アルファ株』→入院・重症化・死亡のリスク高い可能性
『ベータ株』→入院のリスク・入院時の死亡率高い可能性
『ガンマ株』→入院・重症化のリスク高い可能性
『デルタ株』→入院のリスク高い可能性
『オミクロン株』→入院・重症化リスク低い
オミクロン株では、入院に至るリスクや重症化リスクがデルタ株に比べて低いという報告が相次いでいます。
一方で、イギリスの保健当局は、オミクロン株は重症化リスクが低いといっても、感染拡大のスピードの速さや免疫から逃れる性質があるため、必ずしも医療機関への負荷が減ることを意味しない、と強調しています。
欧米では、実際に感染者数が激増し、入院者数も急増しています。
▼再感染のリスク
『アルファ株』→ウイルスを抑える抗体の働きは維持、再感染のリスクは従来株と同じか
『ベータ株』→ウイルスを抑える抗体の働きは減る、ウイルスを攻撃する細胞の働きは維持
『ガンマ株』→ウイルスを抑える抗体の働きはやや減る
『デルタ株』→ウイルスを抑える抗体の働きは減る
『オミクロン株』→再感染のリスク上がる
WHOでは、ワクチンや過去の感染によって免疫を持つ人でも再感染しやすくなる変異があるとしています。
イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンは、オミクロン株の再感染のリスクは、デルタ株に比べて5.41倍と高くなっているとする報告を出しています。
▼治療薬の効果
重症化を防ぐために感染した初期に投与される「抗体カクテル療法」は、効果が低下するとされています。
開発したアメリカの製薬会社「リジェネロン」は2021年12月16日、「オミクロン株に対して、効果が低下する」とする声明を出していて、日本の厚生労働省はオミクロン株に感染した患者には投与を推奨しないとしています。
一方で、ウイルスの増殖を防ぐ仕組みの飲み薬には影響が出ないのではないかと考えられています。
東京大学などの研究グループは、軽症患者用の飲み薬「モルヌピラビル」を投与した時に体内に出る物質や、中等症以上の患者に投与される「レムデシビル」の作用を調べたところ、オミクロン株に対して、デルタ株と同じ程度の効果が得られたとする実験結果を紹介しています。
また、WHOは、重症患者に使われる免疫の過剰反応を防ぐ薬やステロイド剤は、引き続き効果が期待されるとしています。
▼感染経路
新型コロナウイルス感染経路は、飛まつや「マイクロ飛まつ」と呼ばれる密閉された室内を漂う小さな飛まつが主で、ウイルスがついた手で鼻や口などを触ることによる接触感染も報告されています。
オミクロン株について、感染力が強まっているおそれはありますが、同様の感染経路だと考えられています。
■専門家「これまで以上に注意を」
新型コロナウイルスのオミクロン株はこれまでと比べて重症化する割合が低いとされていることについて、海外での感染状況に詳しい東京医科大学の濱田篤郎特任教授は「オミクロン株の重症化リスクはデルタ株と比べて3分の1程度だというデータもあるが、感染者の数が増えれば重症化する人も増える。今は感染した人は若者が多いが高齢者に広がるとより重症化しやすい可能性がある。重症化リスクが低いといっても注意が必要な状況であることに変わりはない」と話していました。
また、オミクロン株の感染力がデルタ株よりも強いとされることについては「オミクロン株は上気道という気道の上のほう、鼻やのどにくっつきやすく、そこで増えやすいといわれている。そのためウイルスがくしゃみやせきで周辺に飛び散りやすく、感染しやすいのではないかと考えられる。デルタ株のときも屋外でバーベキューをしていた人が感染した事例があったが、オミクロン株はより感染力が強いため、これまで以上に注意してもらいたい。マスクの着用や手洗い、密を避けるといった対策を続けて、ワクチンの追加接種が受けられる状況になれば、受けてほしい」と話していました。
さらに、今後、注意が必要な点として濱田特任教授は「オミクロン株により、感染者数が非常に増えるおそれがある。感染者や濃厚接触者は一定の期間、仕事を休まなければならず、医療従事者の間で感染が広がると医療のひっ迫につながるし、エネルギー関連の企業や交通機関などで休む人が増えると社会機能にも影響が出る。感染力が強いことで、社会経済に大きな影響が出るおそれがある」と指摘しました。
■対策は変わらない
オミクロン株は、現在、感染力や病原性などについて、世界中で研究が進められていて、WHOや国立感染症研究所などが情報を更新していく予定です。
私たちができる対策はこれまでと変わりません。
厚生労働省の専門家会合も、ワクチン接種の推進に加えて、特に会話時などでのマスクの着用、消毒や手洗い、換気や密を避けるといった基本的な対策を続けるよう呼びかけています。