2022/01/15【新型コロナウイルス:COVID-19】千葉大病院感染制御部長・猪狩英俊氏 科学実践で「ウィズコロナ」 経験、想像力生かし行動を
猛烈な勢いで感染拡大する新型コロナウイルス。「オミクロン株」は本県でも市中感染が止まらない。まさに第6波を迎えた中、千葉大病院感染制御部長の猪狩英俊氏が本紙に緊急寄稿。コロナ禍3年目のいまこそ「ウィズコロナ」を提唱。積み上げた科学的ノウハウを県民で共有し、経験値という「流行」に敏感であってほしいと呼び掛けた。
2020年1月6日、中国の武漢で新型コロナウイルス感染症が多発しているとのニュースが飛びこんできました。この時点では、“原因不明肺炎”でしたが、3日後にはコロナウイルスが原因と判明しました。03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)は、コロナウイルスが原因であると分かるまで約1カ月を要したので、この17年間で微生物に対する監視体制は格段に進歩し、対策が強化されたことが分かります。
そして21年5月11日、インド由来の変異株(後のデルタ株)が世界的流行になることへの懸念をBBCが報じました。まもなく日本にも持ち込まれ、7月下旬からの第5波につながっていきます。
さらに11月末には、南アフリカでのオミクロン株の流行情報が入ってきました。日本は水際対策を強化しましたが、市中感染を防ぐことはできず、22年は新年早々から、オミクロン株による第6波と向き合うことになりそうです。
コロ対応も3年目に突入しましたが、これまでの経験から、何が重要か、科学的に分かってきたことを五つ挙げたいと思います。
第一に、医療体制の強化です。単純にいえばコロナ患者を受け入れる病床の確保です。20年の武漢では、やむを得ないことでしたが、医療体制が脆弱であったために犠牲者が増えてしまいました。
第二には、ワクチン接種です。医療従事者への3回目のワクチン接種が始まりました。全世代での2回ワクチン接種率は80%近くに達しています。
第三には、コロナウイルスに有効な薬の登場です。これらから出てくる薬もあります。治療方法と包括すれば、既存薬の組み合わせも確立してきました。ステロイド、レムデシビル(抗ウイルス薬)、バリシチニブやトシリズマブ(炎症反応を抑制する薬)などです。
第四には、ECMO(体外式膜型人工肺)などの集中治療体制があります。
そして、第五は、感染対策です。マスク着用や手指衛生、三密回避の徹底です。
改めて、2年前の20年1月の新聞を見直すと、「人から人に感染する」「院内感染が起こる」といった記事が取り上げられています。いま振り返れば、当たり前のことですが、当時の私たちは「本当に何も分からない」状態でした。そこから、この2年間で、コロナと闘う科学的エビデンスを積み重ねてきたのです。
これから、withコロナの時代が始まります。たとえ幾つもの流行の波に揺さぶられることになったとしても、私たちはこの波を乗り越える科学的ノウハウを確実に増やしてきました。経験値と言われるものにも、科学があります。三密回避、マスク着用もそうです。そして、新薬、ワクチンも科学です。県民の皆様には、その時々に皆で共有している科学的ノウハウや経験値などの「流行」に敏感であってほしいと思います。波に体当たりすることは賢明ではありません。想像力を働かせて行動し、緩急を棲み分け、科学を実践すること、ここに理想とするwithコロナがあると考えています。
◇いがり・ひでとし 1988年、千葉大医学部卒。結核予防会県支部診療部長、国立病院機構千葉東病院呼吸器センター長などを歴任。日本感染症学会指導医・専門医、千葉大学医学部附属病院長補佐。