AskDoctorsに寄せられたお悩みをマンガで紹介し、医師からの回答を紹介する本シリーズ。今回ご紹介するのは、1歳になる子どもにはちみつをあげても問題ないかを心配しているお母さんからのご相談です。
【今回のお悩み】
もうすぐ1歳になる子供のことで質問です。1歳未満の子にはちみつは与えてはいけないとのことですが、1歳の誕生日当日からは原液をそのまま食べても問題ないのでしょうか。それとも加工食品などで徐々に慣らしていくのでしょうか。
【医師の回答】
お疲れ様です。心配ですね。
1歳になったら、はちみつを原液で食べて良いと思います。
乳児(1歳未満)で、はちみつを食べてはいけないのは、乳児ボツリヌス症になり得るからです。
ボツリヌス症は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス神経毒素によって起こる全身の神経麻痺を生じる神経中毒疾患です。小児で起こるボツリヌス症には、ボツリヌス食中毒、乳児ボツリヌス症、その他、があります。
ボツリヌス食中毒は、食品中でボツリヌス菌が増殖して産生された毒素を、口から摂取することで発生します。毒素なので摂取してから発症までが約6-48時間と速いのが特徴です。
乳児ボツリヌス症は、乳児の腸管内でボツリヌス菌が増殖して産生された毒素によって発生します。腸管内でボツリヌス菌が増えるまでに時間がかかるので、摂取してから発症まで約3日とやや時間があります。
ボツリヌス菌は、真空パック・缶詰・瓶詰めの食品や発酵食品など、酸素が少ない環境で増殖して毒素を産生します。そのため、はちみつにボツリヌス菌が混入することはあっても、はちみつ内でボツリヌス菌が増殖し毒素が産生される事はありません。
また、乳児ボツリヌス症を起こす原因は、はちみつだけではありません。実際、1986年に日本で初めて乳児ボツリヌス症が報告され、以後39例が報告されていますが、このうち、26例ははちみつ以外が原因と考えられています。ただ、因果関係が明らかな食品がはちみつであったため、1歳未満の乳児にははちみつを摂取させないように指導されます。
同じボツリヌス菌を摂取したとしても、1歳未満は乳児ボツリヌス症になり、1歳以上は乳児ボツリヌス症にならないのは、腸管内の微生物の状態の違いと思われます。
乳児ボツリヌス症は、多くは3日以上続く便秘で発症します。他に、不活発、哺乳力低下、泣き声が弱いなどが症状です。まぶたが開きにくい、物が飲み込みにくい、などの脳神経麻痺から、全身の筋緊張低下が進みます。もし、横隔膜も麻痺すると呼吸が出来なくなるので、人工呼吸器が必要になります。しかし、一般的に乳児ボツリヌス症の経過は良好で、米国での死亡率は1%未満です。
もし、1歳以上の小児で、同様の症状を認めたら、ボツリヌス食中毒を考えなければなりません。この時は、真空パック詰め食品などを食べなかったか、など、食品の摂取歴を確認します。保健所が活躍し、原因と思われる食品を回収して検査に回します。
1歳以上の小児でも、ボツリヌス菌を摂取して、乳児ボツリヌス症と同じように、腸管内でボツリヌス菌が増殖しボツリヌス毒素を産生し、ボツリヌス症を発症することがあります。これを成人腸管定着ボツリヌス症(の小児例)と言います。消化管に器質的あるいは機能的な基礎疾患があるか、抗菌薬を使用している場合に発症することが多く、原因食品を調べても不明なことが多いようです。
何はともあれ、乳児ボツリヌス症になり得るため、1歳未満の乳児は、はちみつを食べないようにしましょう。お子さんが一歳になったのであれば、はちみつを原液で食べても基本的には問題ありません。心配な場合は少量から食べさせ始めると良いでしょう。