2022/01/28【新型コロナウイルス:COVID-19】“重症化しにくい?”オミクロン株 どう向き合う
今、世界を揺るがしている新型コロナウイルス。
2021年11月に初めて報告されたオミクロン株は、これまでにない感染スピードで瞬く間に広がりました。ただ、重症化する人の割合はそれまで主流だったデルタ株に比べて低くなっているとされ、普通のかぜに近い症状の人が多いという報告もあります。
そんな中で、「重症化しないならインフルエンザやかぜと同じでは?」「特別な対策は必要ないのでは?」という声も聞かれます。
オミクロン株に対して私たちはどう向き合えばいいのでしょうか?
■かぜとあなどるのは危険
オミクロン株については、国内外の報告で重症になる割合や入院が必要になる割合が、デルタ株に比べて低下しているとされています。
感染症の専門家などが出した提言の中でも「基礎疾患や肥満を有しない50歳未満の人の多くは感染しても症状は軽く、自宅療養で軽快している」とされました。
(1月21日提言「オミクロン株の特徴を踏まえた効果的な対策」)
症状も発熱やせきやけん怠感など、かぜに近い症状が多いとされていて、こうした情報を見ていると、新型コロナは「ふつうのかぜ」になったのではないかと感じてしまうかもしれません。
では、医療の現場ではどう見えているのでしょうか。
新型コロナが国内に入ってきた当初から最前線で治療に当たっている大阪大学の忽那賢志教授は次のように話しています。
■(忽那教授)
「かぜだから気にしなくてよいのではないかという意見についてだが、個人個人の重症化リスクが下がっていることは事実だ。そのような捉え方をする人がいることも理解できる。しかし、高齢者や基礎疾患のある人、ワクチン未接種の人にとっては、まだまだ危険な感染症だ。感染が広がるほど、こうした重症化しやすい人たちにも広がってしまう。感染症は、感染した人だけの問題ではなく周りに広げてしまう。自身が感染源にならないためにも、基本的な感染対策は続けていただきたい」
感染しても軽症で済む人がいる一方で、重症化しやすい人への影響を考える必要があるという指摘は、厚生労働省の専門家会合のメンバーで国際医療福祉大学の和田耕治教授(公衆衛生学)からも聞かれました。
■(和田教授)
「ワクチンを接種していると重症化を含めてかなり予防できている。ただ、高齢者や妊娠している人、ワクチンを接種していない人などでは、感染するとそれなりに重症化する人がいる。沖縄県の80歳以上の感染者の状況を見ると3割は酸素投与が必要な状態だ。多くの人にとって重症化リスクは低くても、高齢者などに感染が広がると、重症者が増え、病床をひっ迫してしまうのは事実だ」
流行の規模が拡大すると、医療従事者が感染したり、濃厚接触者になったりして、医療体制の維持が難しくなるという問題もあります。
病床には余裕があっても、そこで治療にあたる医療従事者がいなければ、医療体制はひっ迫してしまいます。
■子どもへのリスクは増えている?
オミクロン株の子どもへの影響を懸念しているのは、小児の感染症に詳しいけいゆう病院(神奈川県)の菅谷憲夫医師です。
厚生労働省のデータによりますと、2022年1月25日時点で、感染者のうち、10代以下の子どもの割合は26.1%と、デルタ株が主流だったいわゆる「第5波」と比べて高くなっています。
菅谷医師によりますと、感染拡大が先行した海外では子どもが重症化して集中治療室に入るケースも少なくないということです。
たしかに、アメリカでは1月、子どもの新規感染者が1週間で115万人を超えるなど急増していて、特にまだワクチン接種の対象となっていない4歳以下の子どもでは入院率も増加しているとされています。
■(菅谷医師)
「これまでは子どもの症状は軽く、感染する頻度も少ないとされていたが、オミクロン株の流行で子どもがどんどん感染して、学級閉鎖が相次ぐ事態になっている。感染者が増えれば、一定の割合で子どもでも入院に至る患者が出てくると考えられる。実際、アメリカでは多くの子どもが集中治療室で治療を受けているし、呼吸困難を起こしているケースもある。アメリカの小児科医の報告では、子どもについてはデルタ株よりも軽症だという証拠は今のところはないとしている。デルタ株と比べて入院する割合が下がるというのはあくまで大人の話で、子どもに関しては、これまでこんなに患者が増えた経験が無くまだ分からない」
オミクロン株は、感染者数の急激な増加もあって、子どもに対してもこれまで以上に注意が必要となっています。
■ウイルスは弱毒化したのか
長年、コロナウイルスについて研究している東京農工大学農学部附属感染症未来疫学研究センターの水谷哲也センター長は、オミクロン株そのものが持つ感染力については、デルタ株と大きくは変わらないのではないかと指摘します。
■(水谷センター長)
「ウイルス学の観点から言うと、感染力が強くなった一方で、重症化しなくなるというのは考えにくい。一般的には、ウイルスの量が増えないと感染力は上がらないが、ウイルス量が増えるとより強い免疫反応を呼び起こす。このため発熱やサイトカインストームもより強く起こるし、ウイルス自体が細胞を壊していくので、病原性も高くなると考えられる。私の考えでは、オミクロン株もウイルスとして持っている感染力はデルタ株とそこまでは違わないのではないか。無症状から気が付かないうちに感染が広がるなど、感染者急増の背景には別の理由がある可能性もある」
実際に、最近の研究からは、オミクロン株は感染力自体も高くなっている可能性はあるものの、ここまで急速に拡大するのは、感染してから次の人に感染を広げるまでにかかる時間が短くなったことが大きな要因ではないかと考えられるようになってきています。
さらに、水谷教授は、オミクロン株がデルタ株と比べて重症化する割合が低くなったのは、遺伝子の変異による非常に微妙なウイルスの変化が影響している可能性があると指摘します。
■(水谷教授)
「オミクロン株には警戒が必要な遺伝子の変異が多く入っている。ただ、変異が入れば必ずしも、それがそのまま効果を発揮するわけではない。多くの変異が入るとたんぱく質の電気的なバランスが変化する。たんぱく質の立体構造が微妙に変わり、ウイルスの性質にも影響するとみられる。オミクロン株でも、多くの変異が入ったことで、たんぱく質の立体構造が微妙に変化し、警戒が必要な変異による強毒化の効果が打ち消されたという状態ではないか」
オミクロン株の重症化の割合が低下しているなどの性質も、遺伝子的には非常に微妙なバランスの上で成り立っている可能性があるということです。
■インフル並みの対応はまだ早い
今の社会が感染者急増で大きな混乱に直面している事実は変わりません。
今後さらに感染者数が増えていった場合、事態を乗り切るために季節性のインフルエンザと同等の対応に切り替えるしかないという局面を迎える可能性もあります。
それでも、人々の意識としてオミクロン株を季節性のインフルエンザと同等にとらえてしまうことに多くの専門家は注意が必要だと指摘しています。
そのうちの1人で、新型コロナの治療に詳しい森島恒雄・愛知医科大学客員教授は次のように話しています。
■(森島客員教授)
「インフルエンザは毎年国内で1000万人くらいから2000万人ぐらいが感染し、致死率は0.01~0.02%ほどだが、オミクロン株は今後、高齢の感染者が増えてくると海外のデータから0.1%くらいまでは上がる可能性がある。また、インフルエンザは日本では検査、診断、治療薬をスムーズに受けることができる。一方、新型コロナは、どこでも検査や診断、治療できるわけではなく、飲み薬も流通が始まったばかりでまだ不十分だ。こうした状況の中でインフルエンザ並みの対応に変えるのはリスクが高いと思う」
また、今後、新たな変異ウイルスが登場する可能性も見据える必要があるという指摘もあります。
■(忽那教授)
「オミクロンは確かに病原性が低くなっているが、このあとに出てくる変異株については重症度がどうなるのか分からない。今、インフルエンザのように対策を緩めたとしても、次の変異株の性質によって対応を柔軟に変更できるのかという問題がある。戻せるのであれば、オミクロンに対しては対応を変えるべきだ、という議論はしても良いと思う」
そして、忽那教授は病院内では重症化リスクが高い入院患者が多くいるため、今の段階では院内の感染対策を緩めることはできないとしています。
■一人一人は引き続き注意が必要
厚生労働省は1月24日、オミクロン株がさらに急拡大した場合、自治体の判断によって、濃厚接触者で発熱などの症状がある人は、検査を受けなくても医師が診断できるなどとする方針を示しました。
前述の専門家による提言でも、感染急拡大の際には「若年層で重症化リスクの低い人については、必ずしも医療機関を受診せず、自宅での療養を可能とすることもあり得る」とされています。
対策は、一見緩和の方向に向かっているようにも見えます。
これについて、提言を出した専門家の1人、和田教授は医療体制や社会経済活動を守るために、オミクロン株の特性に合わせた対策に切り替えていく必要性があると言います。
■(和田教授)
「感染者がここまで増えると、各方面で手いっぱいとなっているので、減らすことができる対応は減らしていくことが大事だ。いろいろな情報出てくると結局、どれだけ気をつければいいのかと迷う人が多くなるのは分かる。単純に『非常に怖いウイルスですよ』と言えれば分かりやすいが、基礎疾患の無い50歳より若い人たちにとっては重症化リスクが低い一方、高齢者や小さな子どもなどではやはりリスクがある。非常に伝え方が難しい感染症だ」
対策について和田教授は、レストラン、居酒屋など飲食店の方々の生活を守るには「ステイホーム」のような広範な行動制限を続けるのは難しいとしたうえで、次のように話しています。
■(和田教授)
「取るべき対策は、これまでと同じで、密なところに行かない、人が多く集まる場面での飲食は避けること、家族や密接な仲間以外と飲食にいかないこと、症状ある人は休む、休んでもらえるように周囲も協力することだ。高齢者やがんの患者さん、妊婦さんなどが感染したらどうなるか、透析施設でクラスター出たらどうするか、身近にはいないかもしれないが、そうした人たちが感染したらどうなるか、それぞれが自分のこととして考えながら、できる感染対策を続けてもらうしかない」
■新型ウイルスと闘うということ
新型コロナウイルスが出てきてから、この2年間で、科学的な知見が積み重ねられ、ワクチンの実用化、治療薬の開発など、着実に前進していると言えます。
ただ、新型のコロナウイルスのパンデミックは誰も経験したことのなかったことでもあります。
予想もしない事態が起こることは今後もあるかもしれません。
オミクロン株に対しても、ウイルスの特性を見極めてそれに合わせた柔軟な対応と、一人一人の感染予防対策をうまく組み合わせながら、慎重に進めていく必要がありそうです。