2022/02/13【研究報告】糖尿病でコロナウイルス量増加、スーパースプレッダーの一因か
糖尿病や脳梗塞などの基礎疾患を持つ人が新型コロナウイルスに感染した場合、それ以外の感染者に比べ、体内のウイルス量が非常に多かったことが東京医科歯科大の分析で分かった。ウイルス量は他人への感染力の強さに関係するとされ、1人が10人以上の感染源となる「スーパースプレッダー」になっている可能性がある。特定の感染者の対応を強化することで、効果的な感染抑止への期待がかかる。
■免疫系の異常が原因か
同大の藤原武男教授(公衆衛生学)の研究グループが令和2年3月~3年6月、中等症や重症で同大病院に入院した新型コロナ患者約400人のウイルス量を調査。糖尿病や関節リウマチ、脳梗塞の既往歴を持つ人は、既往歴のない人よりもウイルス量が多く、がんなど他の疾患を含め3つ以上の既往歴が組み合わさった場合は、少なくとも5倍以上多かった。
特定の既往歴を持つ人のウイルス量が多い理由について、藤原氏は「持病による免疫系の異常が原因ではないか」と分析。検査を複数回行った患者の中には、初回より2回目のウイルス量の方が多かったケースがあり、感染後時間がたってからウイルスが増える人もいることが分かった。
感染症では一般的に、ウイルス量が多い人は自分の症状が重くなくても、周囲への感染力や他人に感染させた際の重症化率が高くなることが知られている。
コロナウイルスをめぐっては、以前流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)で、1人が極端に多くの人に感染させる「スーパースプレッダー」の存在が確認されている。韓国では2017年、中東帰りのMERS感染者1人から186人に広がるクラスター(感染者集団)が発生したという。
■院内感染の予防に
一方、新型コロナでは、当初流行した中国由来の従来株の場合、1人の感染者が平均2~3人程度にうつすとみられているが、20年末にベルギーの介護施設で起きたクラスターでは、訪問してきた男性が入居者や職員計100人以上に感染させた疑いも出ている。
藤原氏によると、スーパースプレッダーの仕組みは詳しく分かっていなかったが、今回の研究で判明した既往歴とウイルス量の関係が一因となっている可能性がある。研究グループは特定の既往歴のある感染者が入院した際、個室に隔離したり、担当者に特別な注意を払うよう呼び掛けたりするなどの対策を講じることで、院内感染の予防につながると指摘している。
ただ、この研究は英国由来のアルファ株などの感染者のデータが基となっており、当時はワクチン接種が進んでいなかったこともあり、現在流行しているオミクロン株でも同じ傾向がみられるかは不透明だ。藤原氏は「オミクロン株の感染者については今後の検討課題だ」としている。
■優先的に検査・隔離を
スーパースプレッダー対策は感染防止に神経を使う医療現場の関心も高い。
埼玉県戸田市の公平病院の公平誠院長は「これまでの疫学調査では『恐らくいるだろう』という仮定の存在でしかなかったが、多くのデータを基に具体的な特徴を分析した今回の研究は貴重であり、興味深い」と評価。その上で「さらに研究が進み、スーパースプレッダーになり得る特徴を持った人を優先的に検査・隔離する態勢を築くことで、感染の広がりを効果的に抑える一助になるのではないか」との見方を示した。